真相究明委員会のアドリアーノ・ジオゴサンパウロ州委員長に謝罪申し立て文書を渡す前、23歳の山内フェルナンダさんは「どうして山内家だけで―と父はコロニア内の評判をすごく心配しています。でも同じ扱いを受けた沢山の日本移民を代弁して、誰かが申し立てをしないと歴史の闇に埋もれてしまうと思った」と不安な胸中を吐露した▼戦争を挟んだ時期の日本移民迫害は、勝ち負け抗争が障害になって積極的に論じられてこなかった。だがブラジル近代史にとって、同抗争とはまったく別次元の、はるかに重要な問題を孕んでいる▼軍事政権時代に「ブラジルに人種差別はない」という言説が繰り返され、国民は無批判に信じてきた部分がある。でも最近はサッカーの応援しかり、当地だけが「世界の例外」ではないことは明らかだ▼移住初期からあった日本人迫害という〃ガス〃がコロニア集団心理内に溜まって、戦争中にその圧力は最高潮に達し、終戦という発火点を迎えて大爆発を起こしたのが勝ち負け抗争だろう。臣道聯盟うんぬん、誰が暗殺したという〃現象面〃をいくら調べても「なぜ起きたのか」という本当の因果関係は分からない▼戦前からどんな性質のガスがどう発生し、どれぐらい溜まっていたのかを見ないと、東西の文明を越えた集団移住がもたらした歴史的意味を理解できないと思う▼ジオゴ氏は「戦中にヴァルガス政権は米国の経済支援と引き換えに、枢軸国移民迫害を本格化させた。日米関係という世界レベルの視点から見ないと、日本移民迫害の問題は語れない」と強調する。それを証明する外交文書が出てくれば、来年の終戦70周年に向けて日本でも関心を呼ぶだろう。(深)