「民謡」というと〃過去のもの〃との印象が強かったが、9月28日に開催された琉球民謡保存会ブラジル支部の「民謡の祭典」では〃生きている〃と肌身で感じた。当地で作詞作曲された名曲が歌い継がれているからだ▼例えばカンピーナス城間グループは当地の又吉哲雄さん作詞の『ブラジルぬサビアー』を披露した。サビアーは短歌や俳句にもよく詠われる美しい鳴き声を響かせる鳥だが、それが故郷の鳥に似ていると感じ、哀愁を込めて切々と歌った民謡だ▼同支部マウアーで指導する親川世松師範は、日本のテレビにも出演してCD『サウダーデ・デ・ウチナー』などを発売したグループ「トントンミー」の生みの親だ。若者が自らの音楽として民謡を楽しんでいるから、そのような展開が生まれる▼日本の人気バンド「ビギン」が来伯した折、同支部サントアンドレーの真喜屋弘師範の教室を訪ね、子どもたちが三線を熱心に学んでいるのを見て感動する様が番組で放送された▼安慶名信夫第2代会長(故人)は、90年代に「琉舞の天才少年」と沖縄で騒がれた斉藤悟さんの才能を見出した人物だ。12ほども独自曲を作り、移民の生涯を唄いこんだ▼その安慶名さんを顕彰して、彼の代表曲『奥山千鳥』が今回、斉藤悟さん振付け、具志堅シゲ子さんの踊りで演じられた。ボリビア開拓に挑んだ沖縄青年のサッペー小屋生活を唄ったもので、野獣が迫り、孤独な中で郷愁の想いに耐えきれなくなり自殺してしまった実話を元にした悲劇だ。残念なのはうちなーぐちなのではっきり意味が分からない点だが、他県移民に独自民謡を作り広めた人がどれだけいたか―と考えさせられた。(深)