ホーム | 日系社会ニュース | 日本食産業の真の国際化を=JROシンポを南米初開催=(下)=聴衆も交え活発な討論会=重要課題は「人材養成」
シンポジウムの様子
シンポジウムの様子

日本食産業の真の国際化を=JROシンポを南米初開催=(下)=聴衆も交え活発な討論会=重要課題は「人材養成」

メニュー提案会で試食する参加者ら

メニュー提案会で試食する参加者ら

 基調講演の後、新井さん、ブラジル味の素の坂倉一郎常務取締役、レストラン「Brasil a Gosto」のオーナーシェフ・アナ・ルイザ・トラジャノさん、レストラン「Miya」のオーナーシェフ、宮村フラヴィオさんが討論会を行なった。
 JROの青井倫一理事(慶応義塾大学 名誉教授、みちかず)がコーディネーターを務め、「日本食の広がりについて」「日本食の勢いを維持・発展させるには」等をテーマに活発な議論が行われた。
 パネリストらは、日本食には「健康的」「高品質」「新鮮」などの好イメージがあり、肥満が社会問題となっているブラジル社会で広く受け入れられていること、焼きそばなど市民権を得た日本食がいくつもあることなどの現状を概観した。
 今後の展望について坂倉さんは、「今は〃総合和食屋〃が定番だが、寿司のみ、牛丼のみと、細分化しつつある。各分野のプロ化が進めば品質はあがると思う。バールの少し延長線上にある居酒屋はもっと広がるのでは」と推測、新井さんは「これからは牛丼やカレーライスなど寿司刺身以外のファースト・フード、懐石料理など晴れの日の食事としての日本食が急激に入ってくるのでは。発展の余地はとても大きい」と期待を寄せた。ただし、輸出入の手続きの煩雑さや物流の困難さなど「制度面での障害も大きい」との意見も多かった。
 続いて「日本食の勢いを維持・発展させるには」との問いに、アナさんが「新鮮なものを効果的に食べる食生活について子供を教育すべき」と発言したのを受け、坂倉さんは「しっかりした情報提供が必要。更に日本食を広げるには、もう一度基本に戻ることが成長の鍵になるのでは」と強調した。
 聴衆からは「2~3カ月しか見習いをしていない寿司職人もいる。もっとレベルの高い料理人が必要」「大学の日本食コースを出ても使い物にならない」「寿司職人の養成が各店に任せられていて、家業の範囲を出ない」などの問題点が次々と指摘された。
 テマケリアやフルーツ寿司など現地化した寿司形態は、裾野を広げるのに一役買ってはいるが、品質については常々疑問の声があがっている。日本食が大衆化しすぎたという面もあるようだ。
 パネリストは「正しいものを見せることが大事」(アナ)「良い例を見せ、伝え続けなくては」(宮村)「各店に関する情報を評価の形で広げていくことが必要」(青井)などと対策を述べた。だが日本では10年かかると言われるプロ寿司職人を養成するには、資金も足りなければ教育制度も整っていないという人材養成面での課題が浮き彫りになった。
 青井さんは「料理人への投資は避けられない。人材養成の時間はかかるが、日本食を伸ばすにはそれがベストの方法」とまとめた。料理人の派遣や日本料理コース設置に向けたサポートを、今後JROが行っていくことになりそうだ。
 加藤JRO専務理事は「討論会を通し、ネットワークの必要性が確認された」と手ごたえを感じた様子で、「今年中にもう一度来て、現地の人に動いてもらえる体制作りをしたい」と話した。
 討論会後は食品メーカーや小池信シェフによるメニュー提案会も開かれた。(終わり、児島阿佐美記者)