8日朝、サンパウロ市内の高架を走るメトロの線路から飛び降り自殺を図った女性を2人の中年男性が救った。1人は下から呼びかけて説得、もう1人は高架上で女性を捕獲した。メトロに乗り合わせたフォーリャ紙のリポーターがその様子を伝えた。
8日午前9時50分、フォーリャ紙リポーターが乗った地下鉄1号線の列車がサンターナ駅とカランジル駅の間で急停止した。車内の電気が消えてエアコンも止まり、2、3分経っただろうか。身なりのよい40歳前後の女性が線路と柵の間の狭い緊急通路を走っていくのが見えた。
地下鉄1号線はこの区間、サンパウロ市北部と中心部を結ぶクルゼイロ・ド・スル大通り上にかかる高架橋の上を走っているが、茶色のジャケットに黒い靴、手にレジ袋を持った女性は立ち止まり、柵に近づいた。
フォーリャ紙リポーターが乗っている電車の乗客や、高架下を通る歩行者や車の運転手ら、皆が彼女を見つめている。
クルゼイロ・ド・スル大通りを歩いていた、ミナス・ジェライス州テオフィロ・オトニ市出身で失業中のドライバー、アウタミロ・ソウザさんは「飛び降りちゃダメだ! 神様はあなたを愛している!」と叫んだ。
「鉄橋を走る彼女が見えたから止めようと、叫んだんだ。彼女が止まって下を見たから、思わず大通りの真ん中に飛び出したんだ。車とかの流れも止めちゃったよ」
女性はフラフラと緊急通路から降り、線路の上を歩き出した。
フォーリャ紙のレポーターの傍らでは、およそ60歳の女性が「神様、あの女の人に何がおきたというの?」とつぶやいて泣き出した。
他の乗客はむしろ時間を気にしており、その中の一人は「助けたりしていたら仕事に遅れちゃうよ」と不満を漏らした。
カランジル駅に向かって走り始めた女性はすぐに、サンターナ駅から線路沿いに近づいて来ていた警備員達に気付いた。
警備員の1人でサンパウロ市出身のジョゼ・ベゼーラさん(58)は、この職について30年以上のベテランだ。
黒い制服を着て朝の強い陽日差しを浴びた警備員達はようやく女性に近づいた。ベゼーラさんは女性がいつ飛び降りるか気が気ではなかった。
彼の脳裏には15年前、ポンチ・ペケーナ駅(現在のアルメニア駅)でタマンドゥアテイ川に身を投げる寸前の女性を助けた記憶が蘇った。
女性は柵の外に出てしまい、いつ落ちてもおかしくない状態だったが、外に数秒止まった後、安全な場所に戻った。
「女性に近づいた時、今までの経験を総動員したよ」―。ベゼーラさんは救出中にすりむいた脛の手当てをうけながら、汗をかき興奮状態で語った。「こんな怪我なんでもないよ、命が助かったんだから」
脛に包帯が巻かれたベゼーラさんは、カランジル駅の医務室でソウザさんの抱擁を受けた。ソウザさんの声は、女性が飛び降りないように下の大通りから呼びかけ続けたために枯れていた。地下鉄側は、女性の名前はふせたまま、救急センターに運ばれたと発表した。(9日付フォーリャ紙より)