先日、初めてサルバドールへ行った。気の置けない友人らと楽しいバカンスを過ごすはずだったのだが、移動中に読もうと選んだ本がマズかった。第一回芥川賞受賞作品として名高い石川達三著『蒼氓』だ。
戦前の貧しい農民たちが甘い夢につられて渡伯し、厳しい現実に打ちのめされながらも、ブラジルに根をおろそうと決意するまでを詳細に描いた作品だ。
カラフルな建物と石畳の坂道が独特な美しさを作り出すペロウリーニョ広場など、観光名所を巡る間も、心の中では「お夏の生き方は幸せなのか?」「黒川一家はどうしたのだろう」と1930年の移民船の事が気になって仕方ない。
移民に対する理解が深まり日系社会記者としては充実していたのだが、「せっかくのノルデスチ旅行だったのに」とも思う部分もあり、嬉しいやら残念やら複雑な気分に…。(石)
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