10月26日の大統領決戦投票日を控え、アエシオとジウマ候補が一歩も引かず、必死の戦いを繰り広げています。これに関連するのでしょう、ペトロブラス、特にレシフェ精油所建設にまつわるスキャンダルが一挙に暴露され、国民の注目を集めています。このレシフェ精油所はサンパウロ地方などに較べ恵まれない東北地方に経済発展をもたらそうと、当時のルーラ大統領により建設が決定されました。2007年整地が始まった時点では建設費25億ドル、2011年操業開始と言う事だったのですが、その後色々な事情もあり、2014年現在いまだ工事は完了してなく、総所要資金は200億ドルなると見られています。いくら大ざっぱな話が多いブラジルにしても、「費用が当初予算の8倍にもなるとはね! 何で?」と、誰でもが考えます。そうです、これまた皆様の想像通り「うまい話には沢山のアリが群がって」支出が水ぶくれになっていたのです。
今回のスキャンダル暴発を機に、どのように表の金をウラに変えたのか? どのくらいの金が動いたのか? その金はどこへ行ったのか? 皆さんと一緒に検証してみましょう。
表に出てきたウラの金
レシフェ精油所関連スキャンダル発覚は本年3月、連邦警察による関係筋への手入れで始まります。ペトロブラス本社供給担当取締役(2004年―2012年)のパウロ(PAULO・COSTA)、業務仲介人(ドレイロ、闇ブローカー)アルベルト(ALBERTO・YOUSSEF)他が汚職、公的資金不正取り扱い、などで逮捕・拘留されたのです。
そして本年8月、パウロは取り調べ当局と「司法取引」をすることで合意し、その後、10月、アルベルトもこの司法取引き方式を選んだのです。
彼ら二人は、法律に定める通りに罰を適用されれば「50年以上の刑期」となるのですが、司法取引で合意すれば「3年―5年の刑期」に軽減されるからです。
パウロは不正取引の仕組み、裏金の流れなど自分の知っているところを正直に「告白」陳述しました。その結果、10月はじめにはもうクリチバの留置所を出て、リオの家族のもとに帰っております。在宅服務です。
このパウロの告白による公金むしりとりの手口は後述の通りですが、パウロ自身が保有していて、今回合意で国へ返納することにした財産額を知るだけでもビックリさせられます。即ち
◎法に規定された罰金―500万レアルを払うー(既に裁判所に供託した)
◎スイスなどの銀行にある自分名義の金―2580万ドルを国庫に返納する。
◎リオにある土地・遊覧ボート(110万レアル)・豪華外車(30万レアル)なども返納。
パウロは家宅捜査を受けた際、自宅に現金18万ドル、1万ユーロ、更に76万レアルを発見されました。「何の金?」と聞かれて「当座の金さ」と答えたそうです。庶民の当座の金とは感覚、単位が違いますね。
それにしても一人の人にこれだけの金が流れたのだとすると、他の人に流れた分を合わせたら全体でいくらになるのか? 知りたくなりますね。
想定が難しいがドレイロが扱った金額は他のルートも含むのか、100億レアルはあるとされています。(時代は違いますが、日本で大騒ぎされた有名なロッキード事件で全日空への工作費は30億円、当時の首相に渡されたお金は5億円と言われていました)
ウラ金生み出す仕組み
官庁、公社などの機材買い付けは公開入札で行われ、技術、財務面などの厳しい審査を受けて最適なところに発注されることになっています。
発電所ダムや精油所などの大型複合工事となると技術的にも難しいし、大きな資金も必要ですから、限られた企業しか出来ません。ブラジルでもこれが出来る大手業者―GENECONは限られてきます。(別表参照下さい)
当地の新聞社やテレビの報道を総合すると、以下のような仕組みで裏金を作っていたようです。
資格のある大手はあらかじめ話し合いをして(ヤミカルテルを結成)受注する業者を決めます。工事の見積もりを作る際には通常のコストのほかに管理費が加算されるが、この中に「関係筋」に支払う「献金」額も加えて見積もり総額が算出されます。
工事を発注してカネを払うペトロブラス(以下PB)の幹部もその内容については知っているので、事はスムーズに運びます。「関係筋」と言うのはPB幹部を指名する政党であり、又、案件を担当するPB幹部(この場合パウロ自身)です。
上乗せされて後刻還流される金額は、案件ごとですが、このケースでは契約額の1%から3%だったと言われています。こういう金は受注者からPB責任者なり、関係政党に自由に使えるウラの金として現金などで渡されました。
ドレイロのアルベルトはこの様な業者とPBとの連絡、カネの処理送金などを担当しました。こうすれば、入札するよりも、手数も掛けず、誰も損しない(?)「みんなニコニコ隣組」になる訳です。
ウラ金はどこに行ったか
次は「この様にして生み出されたウラ金は、どこへ行ったのか?」という点です。公開された告白によればPT(労働者党)を中心とするPMDB(民主運動党)PP(進歩党)の与党3党です。PB担当責任者もパウロの例のように応分の「仕事賃」を受け取っています。その授受は足がつかないようにホテルとか自宅とかで現金でなされたとのことです。
再び、当地の新聞やテレビの報道を総合すると、このような山分けをしていたようです。
政党名だけでは分からない。具体的に受け取った者の名を上げろ、そう言われると思います。
報道では大臣1名、州知事3名、上院議員6名、下院議員25の名前が挙げられていた。しかし名前を挙げられていた政治家たちはいずれも、『とんでもない濡れ衣だ。まったく関わり無い』『告白者はうそつきだ。名誉毀損で訴える』などと全面否定している。
また、地方司法当局も連邦議員を逮捕捜査対象にするには権限がなく、最高裁判所に審査を移さなければならない―などの事情があり、〃先生方〃はその後の経過の公表を避けているようだ。従って受け取ったカネも言われるとおり全部選挙運動資金に使われたのか、自分のポケットに入れたのか、目下詳細は不明という。
日本にはない司法取引
次に「司法取引」です。日本にはない方式なので分かり難いかも知れませんが、一口で言えば「違法行為の内容、犯罪組織の内側などを司法当局に告白開陳して、それと引き換えに自分の刑を軽減してもらう合意」です。ブラジルではDELAÇÂO PREMIADAと言いますが、司法側としても犯罪側内部の情報がよく分かるので、捜査を効率よく進められるという利点もあります。告白は原則非公開なのですが、今回は一部が公開されました。
前述の二人の場合、不正蓄財の没収はとも角、50年もの刑期では生きてる内に刑務所から出られません。パウロなどは元々普通のエンジニアだったのを政党がらみの役職に就かされたお陰で、こういう不正業務の歯車に組み込まれ、『こういう人生もう沢山だ。後は家族と一緒におとなしく暮らしたい』と色々考えて『告白』に踏み切ったのでしょう。なお、この告白は後に真実と立証されなければなりません。ウソの陳述をしていれば刑の軽減も無効となりますから、信用できる内容と見てよいでしょう。
それでどうなる?
今回PBスキャンダルの内容暴露にビックリ仰天したのは名指しされた政治家たち、今政権の座にある人達です。ジウマ大統領は「汚職撲滅は常づね私が言っている所だ。今回のPBの件でも不正行為者を罷免したのも私だ。この時点での不正報道は反対派の選挙のための策謀だ」と怒り心頭の発言です。
一方、政権打倒のアエシオは「ブラジルの看板企業PBを食い物にしているのは誰だ! 汚職幹部を指名し、不正のカネは吸い上げて、後は知らぬふりをしているではないか。こういう旧い政治を変えて(MUDANCA)新しい政権を作ろう」と呼びかけています。
再び当地の新聞やテレビの報道を総合すると、次のような難しい事情があるようです。
PBには他に、米国の精油所買収にかかわるスキャンダルもある。パウロはこの件だけで150万レアル分け前を貰ったと告白している。もしこの黒い話が更に拡大すれば、ジウマ政権には大きな傷がつく。
しかし、アエシオのPSDB側にも弱点はある。ここで両者がお互いのスキャンダル攻撃合戦をやれば相互に傷つくだけではない。ブラジルの政治自体が泥だらけのようになり、国民にそっぽを向かれることになる。犯罪処罰は司法にゆだねて、政治的にはまあまあとフタをしてしまう可能性はあるね。
さてこの話、これからどの様に展開するか? 投票日まで目を離せませんね――。
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