4月にワールドカップ関連の仕事の準備でブラジルに渡ってから、8月の中旬までの長期滞在を終えて、久しぶりに東京に戻って、ひとつ驚いたことがある。消費税が8%になったこともあるが、それだけではなく、明らかにかなり多くの商品の値段が、増税前と比べて上がっていたことだ。
もちろん、2倍、3倍は当たり前というブラジルのワールドカップ便乗値上げに比べれば可愛く、わずか数パーセントではあるが、長年のデフレに慣れた目には新鮮に映った。約20年ぶりのインフレの兆しであろうか。
これまでの総デフレ下での値下げ競争に疲れた企業が、アベノミクスで株価が上昇し、消費税がアップした機会にみんなで渡れば怖くないとばかりに駆け込み値上げをしたように感じる。問題はこれが本当に利益増となり、人々の所得アップにつながり、購買意欲が高まり、インフレが定着するかということであろう。
かたやブラジルは正真正銘のインフレ国である。ハイパーインフレ時代を経験している身からすれば、今のインフレはわずかではあるが、毎年確実に上昇している。しかも、商品によっては1年のうちに何度も値上げをしている。
例えば、私は年に何度も日本―ブラジル間を往復するので、ブラジル製品でも化粧品などの消耗品の買い物を頼まれ、毎回同じものを購入することがあるが、あるメーカーのハンドクリームなどは、買うたびに定価が上がっているのには驚く。
最初は20レアル(約920円)だった定価が、次には23レアル(約1058円)になり、3回目は27レアル(約1242円)、最後には29レアル(約1334円)にまでなった。昨年から今年にかけて、4回買ったわけだが、わずか1年で1.5倍の価格になったことになる。
デフレに慣れている日本人には、同じメーカーの同じ製品の定価が1年の間に何度も上がることはなかなか信じられないであろう。何か私が悪いことをしているような気になってしまう。
この化粧品は極端な例ではあるが、実は野菜や果物、食肉などの食料品も、本当に小刻みに上がっており、ある日気づくと倍になっていたということがある。それでもメーカー側も、今のところデモは起こるが、購買力がそんなに下がらないので、値上げを続けているのであろう。お店側も社員の給与はインフレ率に応じて上げることが義務づけられているし、仕入れ値もアップするので、それらのバランスを見ながら経営をしていかなければ、この歯車が狂うと商売が成り立たなくなってしまう。
さらに複雑な税制を考慮すると、たっぷりと利益を取っていないと不安になる気持ちもわかる。市況、為替、税制を鑑みながら小刻みにタイミングよく、値上げしていくというこの絶妙な調整が、デフレに慣れた日本企業にうまくできるだろうか。さらに、政府や自治体の恩典、インセンティブ、高金利を活かして、値下げ・広告宣伝原資をつくることも大事である。
これまで日本企業がどちらかというと苦手としていたこれらを乗り越えなければ、ラジルで大きく利益を上げることはできない。
[su_service title=”輿石信男 Nobuo Koshiishi” icon=”icon: pencil” icon_color=”#2980B9″ size=”28″] 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。
2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。[/su_service]