4年に一度の大統領選挙は、もちろん政治の戦いではあるが、実はマーケティング的にも様々な新しい発見をさせてくれる。ブラジルの場合は直接選挙のため、両党の様々な地下活動があるとしても、ある程度民意を反映した結果となる。
そして、各新聞社もこの時期に選挙のスペシャルエディションを発行し選挙の動向とともに、結果の分析や経済の振り返りなどを行うので大変参考になる。特に10月5日の第一回投票の結果分析は、広大なブラジルのエリア分析に新しい視点を提供してくれた。
今回の選挙は、12年という長期労働党政権が経済の疲弊を招き、明らかに新聞やテレビのニュースをちゃんと見ている人であれば、巨額の贈賄や腐敗ぶりに、誰もが労働党政権以外の候補者を選びたがっており、それでも労働党を選ぶのは余程の恩恵を受けている層ということになる。 しかし、その新聞やテレビのニュースを見ている「誰も」が実はブラジルの場合、くせ者である。ちょうど、日本でも政治資金の使い道について、連日国会で与党が追求を受けているので比較するとわかりやすいが、日本では毎日700万部、800万部発行される新聞各紙で報道され、朝のニュースやバラエティ番組でも取り上げられ、さらにはインターネットや携帯にニュースが流れてくる。おそらく日本の有権者の半分以上が、今起こっていることを知っているだろう。 翻ってブラジルを見てみると、まず日本の朝日、読売に匹敵する日刊紙のほとんどが発行部数25万部前後である。地方紙を除いて、新聞でこの報道を知る人は、わずか100万人程度と予想される。人口のたったの0・5%。さらにテレビでも、ニュースを見る人はわずかであり、多くの人がサッカーとドラマの視聴が中心であると思われる。
日本では、大臣の2000万円程度のお金の使い道が問題になり、国会が紛糾し、大臣も辞任したようだが、ブラジルでは桁が違う。与党が手にしたお金は百億円単位である。おそらく日本で同じことが起これば、党首は辞任、選挙は辞退となるであろう。しかし、ブラジルは堂々とテレビディベートにも出て、まったく悪びれない。 どう考えても、今回の選挙で、中間層以上のブラジル人は、このおかしさに気づき、ネベス候補に投票をするはずである。これだけの状況にありながら、まだジルマ候補に投票するのは一握りの利権を手にしている人たちと、ボルサ・ファミリアなどの労働党の恩恵を受けている低所得者層と報道に触れていない人たちであろう。
そう考えると、多くの消費材を扱う日本企業にとっての重要顧客である中間層以上は、第1回投票ではネベス候補かシルバ候補に投票をしているはずである。それを前提に第1回投票の結果を見ていると面白いことがわかる。
まず、当初の予想通りにジルマ候補の労働党は、北部、北東部を地盤としており、そこでは相当な強さを見せた。そして、ネベス候補は南部、南東部で力を発揮している。本来は有権者数で比較するべきところだが、今回は各州の獲得比率に人口を掛けて、総人口に置き換えて市場規模を計算してみると、ジルマ候補の獲得人数は8400万人、ネベス候補は6600万人であった。
かなり強引ではあるが前述の前提から、この約6600万人をおそらく中間層以上として捉えてみるといくつか意外な発見がある。北部でもネベス候補が強かった州、南部でもジルマ候補が上回った州がある。詳細は次回に。
2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小 企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント 企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。[/su_service]