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バスを自転車に換えてみたら=フォーリャ社員1週間の挑戦

 ハダジ労働党(PT)市政は公約の60%に当たる155キロの自転車道を整備したが、26日付フォーリャ紙が、同社社員が1週間自転車通勤をした様子を一人称の文章で紹介している。
 10月17日、穏やかな金曜日の夜。サンパウロ市中央部の道は混雑していた。エリートビジネスマンがハッピータイムのバーを埋め尽くし、家族連れがピッツァを頼むか外食を楽しむかを決める頃、私は自宅まで4キロのところにいた。ガソリンスタンドの床に座り込み、汚れた手で、しぼむ一方のタイヤに空気を入れようとしていた。
 サイクリストだったことなど一度も無い。何年もインドア派。やっと仕事が終わってさっさと帰りたいのにとの思いが募り、「1週間自転車で市内を移動する」という編集部のミッションを受けた事を後悔していた。
 実際の任務は、私の住んでいるベラ・ビスタと会社のあるカンポス・エリゼオスの間を、4年前に買ったきり、車庫で寝ていた自転車で往復するというものだった。
 サンパウロ市は自転車道の設置を進め、ノロノロ運転のバスや、果てしない渋滞に我慢ならない人、健康的な生活を送りたい人に自転車を使うように奨励している。
 私は模範的な市民というわけではない。通勤・通学ラッシュを避けて11時に家を出る。車は持ってない(妻は持っている)のでバスで通勤。パウリスタ大通りとコンソラソン通りを経て、家からオフィスまで35分程。携帯でニュース(お堅いものもそうでないのも)をチェックする。
 ガソリンスタンドに話を戻すと、自転車のタイヤはパンクしていたが夜の9時では修理屋もあいていないだろうから、会社に戻り、自転車を置いてタクシーで帰ろうかと思ったが、それでは任務遂行にならないと思い、自転車を押して歩いて帰った。途中で3軒タイヤ店があったが、車優先といわれて3軒目でやっと修理してもらい、家に着いたのは2時間後。汗まみれだったのは言うまでもない。
 ミッション初日の15日の朝、タイヤのパンクは心配事の中でも小さな事柄だった。初日に最も心配していたのは車も走る道路で事故に巻き込まれずに安全に走行できるかということだった。
 2日前はラッシュを避けて乗るバスに不満なんて無かった。それがいまでは、八方塞の気分だ。車に邪魔され、怒鳴られる可能性はもちろん、轢かれるかもしれない。
 サンパウロ市内でどの位のサイクリストが轢かれているかはあまり知られていない。去年だったか、自転車専用道を走行中の青年がパウリスタ大通りで接触した車に腕をもぎ取られたといった目に付く事件以外は。
 サンパウロ市交通技術公社(CET)によると、2013年のサンパウロ市では706人のサイクリストが交通事故で怪我をした。死者の数は35人だから10日に1人の割合で、これは2005年以来最も低い数値だ。
 車に轢かれたくなかったから往来の激しい大通りは避けることにした。バスで通ったパウリスタやコンソラソンは避け、車が少なく、速度も遅いビシーガの中を行くことにした。4キロの道のりで自転車専用道は1キロだ。
 初日は想像していたような悪いことは何も起きなかった。車の間を縫って走るのは快適ではなかったけれど、それほど危険だったわけでもない。上り坂は大変で、降りて押して歩いた。
 想像していたのとは違い、車に意地悪されることも道をふさがれることも無かった。私の後ろを走る車は、新米サイクリストのノロノロ運転にもいらつかずに待ってくれた。相手の方が速いなと思ったら先に行ってもらった。漕ぐのに疲れたら休んで一息ついた。しかし、ウインカーを出さない運転は怖かった。
 歩行者が自転車道に慣れていないことにも気が付いた。ぼんやりしている人や、横断歩道の外を歩いたり、車にしか注意を払わない人も。
 サイクリストの視点からすると、世の中まだまだ暗い道がある。ビシーガ地区のサント・アントニオ通りみたいに。(前と後ろに光を反射する蛍光テープをつけるのは法律で義務づけられているが、バックミラーにクラクションもつけると120レアルは下らない)
 道のりそのものの危険性以外にも、自転車で仕事に行くと、車やバス地下鉄で行くときには存在しない心配事がある。どこでトイレに行って、どこで着替えればいい?
 全部の会社に自転車置き場があるわけじゃないが会社にはあった。更衣室まであることは、3日目に同僚のサイクリストに教えてもらって初めて知った。
 何を着るかも問題で、暑い日はハーフパンツで行った。小心者の私にとり、ハーフパンツで脚を出して会社に行くことは上司や、上司の上司に出くわすリスクがあるということを意味し、それは実際に起こった。
 7日間の挑戦を終えて尚、私は自転車通勤を続けている。お腹が引っ込んで健康的な生活が送れるといいと思っている。自転車通勤を後押しする要因は、「今までは時間が無くてできなかった毎日の運動になる」、行きも帰りも25分で「バスよりはやい」の2点だ。
 結論として言うならば、サンパウロ中心部に住んでいる人ならだれでも、週に何日かだけでも車を自転車に取り替えることができる。私にもできたのだから、あなたにもできるはずだ。