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チン・マイアの一生が映画に=ブラジル最大の黒人歌手

 10月30日から、ブラジル音楽界が生んだ史上最高の黒人歌手、「ブラジルのジェイムス・ブラウン」などとも呼ばれることも少なくないチン・マイアの伝記映画、「チン・マイア」が公開されている。
 現在、ブラジルのミュージカルの世界では、有名音楽家の伝記がちょっとしたブームとなっている。この2年の間にも、エリス・レジーナ、ヒタ・リー、カズーサなどの伝記ミュージカルがロングラン上演されているが、こうしたブームに火をつけた作品のひとつが、チン・マイアの伝記をもとにしたミュージカル「ヴァーレ・トゥード」だった。
 今回公開された映画「チン・マイア」は、「ヴァーレ・トゥード」とは厳密には異なる作品だが、話の元になったのは、ミュージカルが元にしたのと同じ伝記だ。
 今回の映画版では、音楽面でも、チン・マイアの残した名曲を、彼を演じる役者の歌でしっかりとおさえているが、それ以上に目立つのは、彼の波乱に満ちた一生だ。
 今回のチン・マイアは2人の役者によって演じられている。1960年代までの売れない駆け出しのころはロブソン・ヌーネスが、成功を手にした1970年以降、98年で亡くなるまでの人生をバブ・サンタナが演じている。両者とも、今作を演じるために、歌のレッスンを受けている。
 ロブソン演じる若き日のチンは、リオの貧しい家庭に生まれ育った頃からヴォーカル・グループを結成してチャンスを得るものの、リードシンガーになれずに挫折。なお、そのときにリードシンガーに選ばれたのは、後のブラジル音楽界の王、ロベルト・カルロスだった。
 その失意のままアメリカに渡っている間に、当時かの地で大流行していたソウル・ミュージックの洗礼を受け、自らが音楽的に目指す方向性を発見する。だが、同時に後の人生まで尾を引いた麻薬もここで覚え、逮捕歴も残してしまった。
 一方のバブが演じるは、ソウル・ミュージックにサンバなどのブラジル的要素を入れて大成功したチン・マイアだ。1970~72年頃は向かうところ敵なしの人気者になるが、事は必ずしもうまく運ばない。激情的な性格で周囲との喧嘩は絶えず、麻薬癖は悪化。コンサートのキャンセルも日常茶飯事だった。
 この映画ではさらに、チンの音楽史上、もっとも謎に包まれていたとされる、1975~76年のカルト宗教に没入していた頃も描かれている。この時期に発表された2枚シリーズのアルバム「ラシオナル」は、レコード会社がイメージを嫌い、発売中止となったが、後に発売された。今日はチンの最高傑作としてあげる声も多い。
 この宗教没入期が、皮肉にもチンが酒や麻薬を断っていた唯一の時期で、その興味が覚めた77年からは再びワイルドな生活に戻り、「大ヒットか、沈黙か」といった不安定な活動の後、1998年に56歳の短い生涯を閉じている。
 この映画「チン・マイア」はサンパウロ市内およびその近郊では約60の映画館で公開中だ。(10月30日付フォーリャ紙などより)