ホーム | 日系社会ニュース | 不穏な国境地帯のゲリラ=伯誌報じるテロ団の悪行=EPPとFARCの繋がり=パラグァイ 坂本邦雄

不穏な国境地帯のゲリラ=伯誌報じるテロ団の悪行=EPPとFARCの繋がり=パラグァイ 坂本邦雄

 最近のブラジルのエポカ誌は『パラグァイでテロに狙われるブラジル人』と題し、自称「パラグァイ人民軍」(EPP)の卑怯な拉致行為に遭い既に230日余も経った今日、未だに開放されないブラシグァジョ(メノナイト系)のアルラン・フィック少年(Arlan Fick、17歳)の悲劇を報じた。そして、テロ集団以外の何物でもないEPPはコロンビアのFARC・革命軍と強い繋がりがあると指摘した。

 なお、EPPはマルクス❘レーニンの思想を遵法するテロ団体で、農地改革、貧民擁護、反民主主義のドクトリン(口実?)の下に人身拉致、農民、住民や警察への襲撃などを働くもので一種の強圧「インペリアル・ブルジョア」だと評した。
 つまり、EPPはコロンビアのFARC及び90年代の毛沢東思想に依る「ペルー共産党=別名『輝ける道』センデーロルミノーソ」のパラグァイ版暴力団に外ならないものだと言う。

26人の小集団が活発に暗躍

 しかして、EPPは僅か26人程の団体であるが、分っている限りではその暗躍の軍資金獲得の最も生産的な手段はテロ行為が主体である。彼等は重武装し、主として東部パラグァイの川や湖が多い広大なコンセプシォン県の密林の陰に潜み、自在に動き廻っているのである。
 コンセプシォン地方はEPPの襲撃、拉致などの悪行、跳梁や武力対抗の中心地である。この地域は舗装道路が少なく森林が多い。パラグァイの警察当局は、1万8千平方キロメートルに及ぶこの広い領域内のどこかにアルラン少年は誘拐されている可能性が高いという。
 なお、エポカ誌は「EPPは狼藉を働くことを目的とする単なる一族郎党のテロ集団だ」とのFTC・合同タスクフォース隊長、ビクトル・ウルダピリェタ陸軍大佐の意見に触れている。

メンバーがコロンビアFARCで〃研修〃

 同じく、EPPはコロンビアのFARCと密接な関係に在る証拠を掴んでおり、同テロ団のリーダーの一人(未逮捕)マヌエル・クリスタルド・ミエレスは、目下コロンビアのFARCでテロ戦術の〃研修中〃だと言う。
 EPPはその誘拐などの狼藉行為に依る収入資金を以って闇ルートを通じてM-16、AK-47、UZI・ミニライフル、MP5-自動小銃などの軍事兵器を調達するのだ。
 そして、大麻闇取引や麻薬政治家が君臨するパラグァイのマリフアナ生産地の本場である東部北方地域で行動し、主にブラジルやボリビアに向けて其の製品を出荷している。
 斯様な状勢の下で、もう既に8ヵ月以上も愛児が戻らない悲嘆の底のフィック家は、唯ひたすらにアルランの無事安泰な帰宅を祈るばかりである。
 現在フィック家は礼拝堂と化し、アルラン少年の安否を気遣う同情者の遍歴が後を断たない。
 今やパラグァイ全国の善民は切に「何処に在りやアルラン?」のやる方ない問いかけを繰返すのみである。
 それにしても、たった26人程度に過ぎない一族郎党の組織だと言われるEPP・テロ集団の掃討に、レッキとした軍隊と警察のエリート合同タスクフォース隊が、これまでに何ら目ぼしい成果を挙げられずにいるのは情けない話だ。

密告がばれるのを恐れる国民風土

 それも一つには、パラグァイの社会は狭くて皆知り合いの間柄のアミーゴ同士で、お互いに庇い合う義侠心?がある一方、罷り間違って〃密告〃の裏切りでもすれば、それこそ惨(むご)い制裁の報復が恐ろしい、と言う民俗風土の心理が働く故ではないかと思われる。
 かてて加えて、大麻闇取引に絡む大きな利害問題の裏には〃麻薬政治家連〃の魔手が政府内要衝で密かに、しかも確実に機能しているのだ。
 去る10月16日には、ア市ABC紙のカニンデジュ県クルグアツー市のパブロ・メディーナ通信員がジャーナリズム学生のアントニア・アルマーダ嬢と地域の闇マリフアナ栽培地の調査取材の帰途、両者共刺客に襲われ殺害された。
 下手人は同県ウペフー自治体のヴィルマル・アコスタ市長の身内の者だと言う疑惑が浮上し、この事件は政府及び一般市民に強い衝撃を与えた。
 カニンデジュ県下での隠然たる麻薬地下勢力を誇るアコスタ一族の悪行の暴露に、メディーナ記者は一貫して健筆を振るいヴィルマル・アコスタ市長に睨まれ、常に死の脅迫を受けていた事は知られている。

麻薬犯罪者と結びついた権力層

 そして、このアコスタ一族の擁護者は、これまた同カニンデジュ県選出の赤党コロラド代議士クリスティーナ・ヴィリャルバ女史で、更に同県下で政治的影響力を以って、往々にして麻薬犯罪者の特赦の便宜を図ったのが、最高裁の赤党系ヴィクトル・ヌニェス裁判官とあっては、麻薬勢力が如何に着実に政府高層部まで侵食しているかの実態を露呈したものである。
 この様なカルテス政権を脅かす一連の赤党内の不祥事は、同じく野党第一党の青党リベラルも深く汚染されている深刻な問題であって、他人事ではないのである。
 あまたのゴシップはタバコ密輸で良く取沙汰される当のカルテス大統領も「一発噛まされているのでは…」と言うが、先日カルテスは赤党の厳しい粛正を求め、赤党本部は逃亡中のヴィルマル・アコスタ市長の党員除名・追放を可決した。因みにアコスタは二重国籍でブラジル人国籍も所有する。
 この度のパブロ・メディーナ記者の殺害事件はただならぬ「政治地震」を惹き起こし、国会は司法府最高裁の裁判官9人中の4人と選挙高等裁判所長官の更迭改選の為の政治弾劾を決議した。
 要は司法府の浄化を図り、政治の干渉を避ける趣意の人事改選の為の弾劾処置だが、また赤❘青党間の〃綱引き争い〃が早速見られ、純粋な司法府の中立改造が果たして成るかが見物だ。
 確かに、麻薬暴力団の金力に左右される陋習的政治体制が根本的に改善されなければ、アルラン青年の救出やEPP・テロ団対抗に満足な成果が何時までも望めないのは当り前ではなかろうか。