サンパウロ日伯援護協会がいったん手を引く―としていたサンミゲル・アルカンジョ市救急診療所の運営を、やはり継続すると発表した。昨年、同市にSUS病院を建設した際、市の要望を受けて他の非日系団体から引き継いだものだ▼SUS病院とは対照的に、救急診療所の運営は「公益団体認定の取得には関係がなく、ほぼ好意」(菊地義治会長)という。経費も当然市が負担する契約だったが、フタを開けてみれば懐の寒い市は滞納に続く、滞納…。面倒な仕事の厄介払いが出来たとでも言わんばかりだ。交渉してもしぶとく支払いを拒否する無責任な市の対応には唖然とするが、今回、検事が「滞納は市の不手際」と指摘したのが幸いだった▼「とにかくブラジル人と交渉するのは大変。少しでも儲かれば懐に入れちゃうしね」と菊地会長はぼやく。調和を是とし、相手のことを気遣う日本人は、強引さを必要とする交渉が不得意だ。汚職が氾濫し、嘘をつくことに罪悪感がなく、性悪説が当たり前の当地国民と〃対等〃に渡り合うのは容易ではない。もっとも、こうしたふてぶてしさこそが、世界水準なのかもしれないが▼在伯歴の長い移民の多くには、日本の日本人には稀な押しの強さがある。譲れないラインを明確にし、断固として押し通す―。それが、人生を通したブラジル人との〃戦い〃から身についた生きる知恵なのだろう▼まだ理事の大半が一世を占める援協が、ブラジル社会との関わりを密にしながら、団体を拡大、存続させているのは驚くべきことだ。世界進出が進む日本でも、事業の成否を分ける交渉力の錬磨が課題とされるように、コロニアの枠を飛び出した団体にとっては、それが生命線なのかもしれない。(阿)