最初によく鑑賞し、箸の先で表面をなで、焼き豚をいとおしむようにつつき、どんぶりの右上に沈ませ加減に沈ませ、心の中で詫びるがごとくつぶやくー「…後でね」。ラーメンを主題にした映画『タンポポ』の一シーンである。漫画家東海林さだお氏のエッセイがネタ元。このシーンを再現するドイツ人と会ったことがある▼この映画、アメリカでは邦画部門第2位の収益を上げ、09年には『ラーメンガール』まで作られている。盆栽人気にみるように、西洋人は日本的な「小宇宙」を愛でる世界感が好きである。「あのラーメンとやらは、日本に行けば食べられるのか?」と遠い目をするドイツ人を見て、変わったやつだなと思ったものだが、時は変わり、世界中でラーメンが大流行である▼アメリカ、ヨーロッパはもとより、16日付け小紙(5面)で掲載したように、タイでは日本のラーメン屋約200店が進出、ご当地ラーメンも凌ぎを削っているという。もちろんタイには、麺文化があり、駐在企業の数、距離の近さもあるが、すごい数だ。ちなみにコラム子の最高の味噌ラーメンはパリのもの。寒風吹きすさぶ石の街。赤い提灯には涙がでた。隣には映画同様、ラーメンに紳士然と対峙するパリジャンたち―。で、サンパウロのていたらくである▼本紙近くの店は一年もせずに閉店。最近食べたものも、化学調味料の権化と期待を予想通り裏切ってくれた。当地の寿司屋の多様化は、富裕層のアメリカでの日本食との出会いが、出資に繋がったことに一因があるとか。であれば、ラーメンに気づいてもらうしかない。今は、記憶と想像の一杯を楽しむしかない。(剛)