日本人が古来より食べてきた玄米は、その栄養価の高さから〃完全食〃と呼ばれてきた。しかし、様々な効能から重宝される一方、意外と知られていない毒性により、実は健康を損なう人も多いという研究も発表されている。この毒性を無害化する方法の一つが「発芽させること」と聞き、早速自宅で発芽玄米を作りコラム「樹海」(9月25日付け)で取り上げた所、「何度も試したが発芽しなかった」「実は玄米食で体調を壊していた」と読者から様々な反響があった。賛否両論が取り巻く玄米の弊害とは? 〃玄米信仰〃と最新の研究成果のズレに迫り、正しい食べ方を調べてみた。
籾から籾殻を取り除いただけの玄米は、糠の部分にビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養を豊富に含む(図1)。日本古来の玄米菜食を提唱する「マクロビオティック」でも主食とされており、今の時代においても玄米食の熱心な実践者は多い。
ところが、玄米を食べ続けて「やせた」「顔色が黒くなった」「体温が低下した」などの症状を呈する場合があるほか、「消化に悪い」「農薬の影響を受けやすい」「異物が混入しやすい」などデメリットもあると指摘する筋もあり、「玄米弊害説」を唱える人も出てきている。
玄米は人体にとって有害なのだろうか?
■玄米は体に悪い?
調べてみると、実は玄米などの「種子」や「雑穀類」には一般に、動物に食べられないように身を守り、適切な時期が来るまで栄養成分を閉じ込め、発芽を抑制する因子が自然に備わっていることがわかった。
これを「発芽抑制因子」(アブシジン酸)と言い、同因子は栄養成分の体内吸収を阻害するだけでなく、エネルギー生成に携わるミトコンドリアという重要な細胞器官を傷つけるという。
玄米の食べ方について情報発信をしているNPO法人「安全なたべものネットワーク オルター」(西川栄郎代表)によれば、「ミトコンドリアが悪影響を受けると、エネルギーを作り出せなくなって、低体温になり、不妊、ガン、さらには全ての体内酵素の働きが鈍くなるという問題が起こり、免疫も低下」するという。
また、お米マイスター(米の専門家)黒田昌弘さんが運営する「ふくい米ドットコム」によると、玄米にはマグネシウムや鉄などのミネラルと強力に結合する「フィチン酸」が含まれており、これが玄米中でミネラルと結びついて不溶性の形で存在するため、腸からの吸収が阻害されるという。
アクなど体に悪いものも排出するという浄化作用もあるため一概に「有害」とは言えないが、玄米食を続けるには、必ず「よく噛む」「ミネラルの多い食物と一緒に取る」「フィチン酸と発芽抑制因子を無害化する」などの工夫や努力が必要だ。
いわば玄米食は〃もろ刃の剣〃のようなもので、その工夫を知らなかったり、怠ったりすると、むしろ、弊害の面の方が強く出る結果を生むようだ。
食品に含まれる栄養素 | ||
(食品 100 g あたり) | ||
栄養素エイヨウソ | 玄米 | 精白米 |
エネルギー | 350kcal | 356kcal |
たんぱく質 | 6.8g | 6.1g |
脂質 | 2.7g | 0.9g |
炭水化物 | 73.8g | 77.1g |
ナトリウム | 1mg | 1mg |
カリウム | 230mg | 88mg |
カルシウム | 9mg | 5mg |
マグネシウム | 110mg | 23mg |
リン | 290mg | 94mg |
鉄 | 2.1mg | 0.8mg |
亜鉛 | 1.8mg | 1.4mg |
銅 | 0.27mg | 0.22mg |
マンガン | 2.05mg | 0.80mg |
ビタミンE | 1.4mg | 0.1mg |
ビタミンB1 | 0.41mg | 0.08mg |
ビタミンB2 | 0.04mg | 0.02mg |
ナイアシン | 6.3mg | 1.2mg |
葉酸 | 27mcg | 12mcg |
パントテン酸 | 1.36mg | 0.66mg |
食物繊維 | 3.0g | 0.5g |
■安全に玄米を食べる
玄米に関する様々な情報を集約すると、その害を軽減するには、
① 白米にして食べる
② 浸水して発芽させる
③ 乾煎りする
の3通りの方法がある。
②の場合、玄米を浸水させることで眠っていた酵素が活性化し、先に述べた発芽抑制因子やフィチン酸の作用が解除され、栄養価がアップする。また、水分を多く含むため普通の炊飯器でも炊け、食感も改善されるというメリットもある。乾煎りの場合、水分量は変わらないが、浸水と同様、因子を無効化できるそうだ。
国立健康栄養研究所の解説「発芽玄米とギャバ」によれば、発芽玄米には有効成分「ギャバ」(脊椎動物・植物に存在するアミノ酸の一種)が未発芽玄米の3~5倍も含まれる。
これには血糖値の低下や高血圧、精神安定、腎・肝機能活性化、抗がん、肥満防止、アルツハイマー型痴呆症の予防など、多岐にわたる効用が報告されている。
■発芽玄米の作り方
発芽玄米の作り方は、至って簡単だ。
まず、①玄米から不純物(石、ゴミ等)を取り除き、②よく洗って30度程度の水につけておくだけ(温度を保てればなお良い)。6~8時間ごとに水を替えながら1~3日置くと発芽する。芽が伸びすぎると生長に栄養が取られてしまうので、0・5~1mmていど芽が伸びた段階で食べることだ。
玄米には農薬が残りやすいので、購入の際は無農薬で、なおかつ発芽機能が生きている天日干しのものを探すことが大切だ。記者の実体験によれば、サンパウロ市カンポ・ベロ区のスーパーマーケット「Natural da Terra」で販売している「KORIN」の無農薬玄米は実際に発芽した。
店員に聞いても分からなければ、実際に水につけて実験してみよう。