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〃政界洗浄〃はいつの日か=ラヴァ・ジャットが暴き出す=世界でも稀な大規模汚職

 大統領選挙の年は毎回のように「ドシエー」と呼ばれる秘密文書が出回っていたブラジル。14年選挙ではドシエーこそ出てこなかったが、連邦警察のラヴァ・ジャット作戦(LJ)では、ペトロブラス(PB)を中心に、これまでブラジルで摘発されたどの事件よりもはるかに大規模で、最高裁判事が「世界でも類を見ない大型汚職」と言うほどの秘密が暴かれた。

 ラヴァ・ジャット作戦(LJ)の初回発動は14年3月17日。闇ブローカーのアルベルト・ユセフ容疑者らが逮捕され、3日後には、PB供給部長だったパウロ・ロベルト・コスタ容疑者が逮捕された。
 コスタ容疑者逮捕の報にやはりと思った人は少なからずいたはずだ。連警はLJ発動直前の3月11、12日にPBに絡む2件の疑惑に関する調査を開始すると発表しており、その一つであるパサデナ製油所の買収問題でもコスタ容疑者の名前が出ていたからだ。
 パサデナ製油所買収問題では、ジウマ大統領がルーラ政権の官房長官として経営審議会議長を務めていた2005年にPBが米国のパサデナ製油所買収を決めた際、同審議会が契約書の条項を良く確認しないままで同製油所の株の半分の買い取りを決めたため、その後に残りの株も買い取る必要が生じ、7億9200万ドルの損失を被ったとされている。

リオ市のペトロブラス本社(Foto: Tânia Rêgo/Agência Brasil)

リオ市のペトロブラス本社(Foto: Tânia Rêgo/Agência Brasil)

 パサデナ買収問題でのコスタ容疑者は、国際渉外担当理事だったネストル・セルヴェロ氏がジウマ氏によって不備を指摘された契約書の要約版を作成するのを手伝った他、パサデナ製油所の持ち主だったベルギーの企業アストラとPBの代表が参加する委員会のメンバーともなっていた。
 3月に連警が発表したもう一つの疑惑はオランダの石油プラットフォームのリース会社、SBMオフショアからの収賄疑惑で、11月になって同社がオランダ検察庁に贈賄を行っていた事を認めた事が判明し、PB職員らに対する調査も始まった。プラットフォームのリースはPBサービス部とガス・エネルギー部門を統括していた元理事のレナト・ドゥケ容疑者の管轄で、同容疑者は11月14日のLJ第7弾で逮捕された。

いずれも巨大な精油事業

 ここまで書けば、PB元理事達が汚職に関与するようになった経緯やLJの捜査対象についても触れなければならない。LJの主な捜査対象は、ペルナンブコ州のアブレウ・エ・リーマ製油所とリオ州の石油化学コンビナート(Comperj)、パラナ州のプレジデンテ・ジェツリオ・バルガス製油所(Repar)並びに米国のパサデナ製油所に絡む事業だ。
 いずれの事業も、180億レアル、75億レアル、86億レアル、11億8千万ドルという巨額の金が動いている。パサデナ以外は建設工事の水増し請求などが問題視されており、これらの工事を請け負ったカマルゴ・コレア、エンジェヴィックス、オブレデヒト、ケイロス・ガウヴォン、イエザ、メンデス・ジュニオルなどのゼネコン大手などがカルテル(談合)を行っていたかも捜査の対象となっている。

汚職の容疑を一切否定するネストル・セルヴェロ容疑者(Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil)

汚職の容疑を一切否定するネストル・セルヴェロ容疑者(Foto: Antonio Cruz/Agência Brasil)

 事業契約を結んだ企業は、ルーラ政権下で労働者党(PT)、民主運動党(PMDB)、進歩党(PP)の連立与党主要3党が指名した理事や各政党のロビイストらに契約額の1~3%の賄賂を払っていたとされ、その金は選挙の裏金などに使われたという。
 検察に報奨付の供述を行ったPB元供給部長のコスタ容疑者はPPの議員が指名し、2004年に理事となった。また、PMDBが国際交渉担当理事に指名したネストル・セルヴェロ氏は03年、PTがサービス部長に指名したレナト・ドゥッキ容疑者も03年に理事に就任した。
 PP内部で動いていたのは、メンサロン事件で有罪判決を受け、2010年に死去したジョゼ・ジャネネ下議と闇ブローカーのユセフ容疑者、PMDBは11月18日に連警に出頭、逮捕されたロビイストのフェルナンド・ソアレス(通称バイアノ)容疑者が仲介役を務めたとされる。PTは同党の会計のジョアン・ヴァカリ・ネット氏が調整役とされているが、同氏は容疑を否定。PT内では同氏を擁護、賞賛する声も出ている。

年末年始も枕を高くして寝られない政治家たち

2013年末にアブレウ・エ・リーマ製油所建設現場を訪れたジウマ大統領(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

2013年末にアブレウ・エ・リーマ製油所建設現場を訪れたジウマ大統領(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

 検察に報奨付の供述を行ったのはコスタ、ユセフの両容疑者、PBの事業を請け負った企業の一つのトーヨー・セタル役員のアウグスト・メンドンサ・ネット氏とジュリオ・カマルゴ氏などで、政治家の名前も相当数挙げられているという。連邦議員などは最高裁に対して起訴されるため、現時点では疑惑のある政治家の完全なリストは公表されていない。
 連邦検察庁は12月11日、PB供給部絡みの汚職に関わったゼネコン6社の役員やコスタ容疑者ら36人を起訴。15日の第2弾ではセルヴェロ、バイアノ両容疑者ら国際部絡みの人物や企業が起訴され、全39人が被告として連邦地裁で裁かれる事になった。
 最高裁は12月20日から休廷だが、ジャノー連邦検察庁長官は、報奨付の供述で名前が出た政治家についても、最高裁の休みが明けた2月早々に起訴する方針だ。
 12月19日付エスタード紙は、コスタ容疑者が名前を挙げたとされる政治家28人の名前を掲載。12月1日付同紙によれば、ユセフ容疑者は「(連邦議会第3勢力である)PP議員の中で、PB絡みの汚職に関与していないのは2人だけ」とも発言している。そういう意味では、LJ発動後、枕を高くして眠れない人物は相当数いるはずだ。
 14年の連邦議会ではPBに関する上院の調査委員会と共に両院合同の議会調査委員会(CPMI)も設置され、12月2日にコスタ、セルヴェロのPB元理事同士の対面証言も行われた。コスタ容疑者は検察との約束ゆえに詳細な発言を避けたが、PB同様の汚職は道路、港湾、空港、発電所などの全ての事業で起きている事と、PB理事はサルネイ政権時代から政治家の指名で決まっている事を明言。政治家の名前は35~40人出ているといい、検察庁が全員を告発する時期は遅かれ早かれやって来る。
 PBを巡る汚職疑惑は2009年に国庫庁が四つの事業の違法性を指摘した時点でも出ており、同庁は既にPBに大きな損失が出ると警告していた。だが、議会の4事業停止決議にも関わらず、ルーラ前大統領は2010年1月に拒否権を発動し、事業を継続させた。

本丸に捜査の手が届く?

 メンサロン事件の時も関与が言われたのに、何の捜査の手も伸びなかったルーラ前大統領。PBの理事任命は大統領の責任で、LJでもルーラ氏の関与を窺わせる供述があったようだが、PBを巡る大型疑惑「ペトロロン」で元大統領に捜査の手が伸びるかは不明だ。
 コスタ容疑者の供述によれば、09年に上院に設置されたアブレウ・エ・リーマ製油所建設での不正を扱う調査委員会では、2010年に野党民主社会党(PSDB)の故セルジオ・ゲーラ氏が1千万レアルを請求、疑惑追及を行わないまま調査委員会を解散という経緯もあったという。
 ユセフ容疑者が起こした架空の薬品会社「ラボジェン」が保健省からの金を受け取る窓口となっていた事や、ブラジリアにある別の闇ブローカーの会社が資金洗浄や現金の受け渡しの場になっていた事など、次から次に新しい報道が続くLJ。アブレウ・エ・リーマ製油所を巡る公金横領額は4億レアル、Comperjの水増し額は2億4900万レアルといった目に余る報道も多い。
 報奨付の供述に応じたPB職員は1億ドル返還という条件も呑んだといい、スイス当局はコスタ容疑者の口座の2300万ドルを封鎖済みだ。
 LJの捜査項目は、個人や法人の資金洗浄や政治家への賄賂の支払、与党関係者の選挙の裏金疑惑、公社職員による汚職、公金やPB関係の金の横流しなど。規模が大きく、全容を捉えるのが困難なLJだが、発動後のPBは株価が下落。国際的な監査機関が第3四半期の決算報告監査の条件に疑惑解明を挙げたため、経営審議会が決算報告を承認出来ず、新しい融資を受ける事も投資を募る事も出来ないなど、その影響は甚大だ。
 レナン・カリェイロス上院議長(PMDB)がPB傘下のトランスペトロ総裁に指名したセルジオ・マシャード氏は、コスタ容疑者に50万レアルの賄賂を払ったとされており、11月30日の辞意表明後に休職延長扱いとなった。後任はまたMDBが指名する見込みだが、資金洗浄ならぬ〃政界洗浄〃はいつになったら可能になるのか。
 メンサロンやペトロロンといった汚職事件が公に取り扱われるようになったのは、ブラジルの成熟化の表れという声もある。だが、公金で私腹を肥やす輩が着服した金が国庫に返還され、正しく使われるようになれば、国庫の状態も改善し、社会政策凍結なども不要になると考えるのは、短絡思考か。いずれにせよ、LJその他の捜査が、責任者の特定や懲罰と共に再発防止策の確立に繋がる事が大切だ。(み)