前回の本欄でおせち文化はほぼ途絶え、もちが日本の正月を味わう数少ない文化だと書いた。その後に、ブラジル日系社会の一割にあたるといってもいい沖縄コロニアにおけるモチはどうなっているのかと気になった。沖縄では、もち粉を水でこねて蒸したものが多いらしい。その代表格がムーチー。月桃の葉で巻いたもので、健康を祈願する縁起物だ▼昨年の1月8日、沖縄・那覇にいた。まさに「ムーチーの日」で、ニュースなどで大きく取り上げられいた。公設市場に出かけてみると、店頭で山のように売られており、「これが沖縄の新年の味か」とその香りを楽しんだ。子供の歳の数だけ作って天井から吊るす文化があり、沖縄県人会の宮城あきらさん(76)は、「起きたときにぶら下げてあって、今でいうクリスマスプレゼントみたいに嬉しかった」と振り返る▼抗酸化作用が強く、かつては保存食として、数カ月はぶら下げてあったという。鑑賞とお茶用に自宅で月桃を栽培しているという大城栄子さん(64)は、「箪笥などに葉を入れるとカビたりしない」という。ただムーチーは作っておらず、「昔はあったが、今は作っている話も聞かない」という。おせちではないが、これも無くなった文化だろう▼夜になると、鬼になり人畜を襲う男がいた。困った妹がモチを腹一杯食べさせ眠り込んだところを崖に蹴り落とした故事から、「鬼モチ」とも呼ばれる。鬼退治から、沖縄の節分も気になるところだが、これは、またの機会に。こちらは当地では完全に消え去った。文化の掛け声をよく聞くが、何が残って、何が残ないのかが最近気になる。(剛)