国際政治学者の高坂正堯は「イギリスは海洋国であったが、日本は島国であった」と論文に書き、地理的には島なのに英国は外に開かれ、日本は鎖国していると論じた▼昨年11月27日付週刊「新潮」の連載「世界史を創ったビジネスモデル」によれば、大航海時代にイングランドの王族らは海賊ドレイクを支援し、引き渡しを要求したスペイン王の要請を断って、逆にナイトに叙任した。同じ頃、日本では倭寇などが現れたが《彼らは「あぶれ者」として切り捨てられてしまった。この部分がしぼみ、鎖国に至った》と対比した▼同連載によれば、世界銀行の調査ではイギリスは現在467万人も外国移住しているが、日本は77万人。総人口との比率では英国が7・5%、日本は0・6%。日本人が移民しない理由として《外に出れば「あぶれ者」になってしまうから》と分析する▼企業駐在員は《つねに日本の本社に顔を向けている。そして、海外勤務を終えれば、組織の中で『国際派』に》なるが、移民は《「ディアスポラ」(離散した者、故国喪失者)になる。有り体にいえば「あぶれ者」~》と指摘する▼以前『海を越えた日本人名事典』(冨田仁編、紀伊国屋書店、85年)という1万5千円もする本を見つけ、どれだけ移民が出ているかと胸躍らせて手に取ったら〃移民の祖〃水野龍すら出ておらず、大いに落胆した▼同書には江戸期から明治までの欧米諸国への日本人漂流民、留学生、旅芸人ら渡航者1700人が網羅されている。要は、不思議なことに帰国しないと日本的には「海を越えた」ことにならない訳だ。今も精神的に鎖国していると痛感する一冊だった。(深)