ブラジル人が映画の最高峰、アメリカのアカデミー賞に絡む瞬間は、これまでの歴史においてもわずかしかない。だが、今年のオスカーで、あるブラジル人親子が、やや変則的な形でオスカーにノミネートされた。
最初は、映画製作者でも役者でもなく、「映画の題材」としてオスカーに選ばれたセバスチアン・サウガードだ。今回は、同氏の人生を描いたドキュメンタリー映画「ソルト・オブ・ジ・アース(Salt of the Earth、ポ語の題名はSalda Terra)」が、オスカーの最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされた。
セバスチアンといえば世界的に有名な報道カメラマンで、これまでの70年の人生で渡った国は100カ国以上。中でもアジア、アフリカ、南米の困窮地帯に出向くことが多く、貧困や飢餓、内戦などの中で生きる人々の姿を映し出してきた。こうした業績が認められ、これまでも数多くの賞を受賞。ブラジルのUNICEF親善大使もつとめている。
また、セバスチアンは日本とも浅からぬ交流があり、2003年から日本写真芸術専門学校の名誉顧問をつとめ、日本での展覧会も数多く行なわれている。
そんなセバスチアンの一生を、「パリ・テキサス」「ベルリン天使の歌」などで知られるドイツの世界的映画監督、ヴィム・ヴェンダースがドキュメンタリー映画化したのが「ソルト・オブ・ジ・アース」だ。
一方、セバスチアンの長男であるジュリアーノ・リベイロ・サウガードは、セバスチアンの人生を映した映画をヴェンダースとの共同監督として担当した。いわば息子が父を描くドキュメンタリーという異色作となったわけだが、この映画はヴェンダースの助力も受け、見事オスカーにノミネートされた。
「オスカーにノミネートされるなんて、信じられない。途方もないことが起きた」と、エスタード紙からの電話取材をベルリンで受けたジュリアーノは喜びを爆発させ、「父の仕事は本当に大事なんだ。オスカーには心から感謝だ。是非多くの人に見てもらいたい」と語った。
この映画に関して残念なことがあるとすれば、この作品の製作国がブラジルではないことだ。「僕たちはこの映画がブラジル製作になるべく働きかけたよ。だけど、手続きに手間がかかりすぎて、結局フランスの会社を中心に、一部イタリアの力を借りる形でつくることになったんだ」とジュリアーノは悔やむ。
さらにもうひとつ残念なことに、この映画「ソルト・オブ・ジ・アース」のブラジル国内での封切りは、オスカーの授賞式の2月22日に間に合わず、3月12日になってしまう。受賞しての公開なら箔がつくが、敗れたら少し寂しい公開になる可能性もある。
いずれにせよ、「ブラジル絡み」の映画として見ておきたい一作だ。(16日付エスタード紙より)
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