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「日本とブラジル、どっちの方が良い?」

 「日本とブラジル、どっちの方が良い?」―道端で偶然つかまえた非日系のタクシー運転手から、そう聞かれた。コラム子が日本生まれだと分かると、多くのブラジル人はそう尋ねる。日系人の多くが日本に向かうデカセギブームの真っ最中に、逆方向に来た天邪鬼だから、この種の質問は数えきれないほど受けた。「ブラジルは良い国だけど治安がね…」と返事をすると、その中年運転手ファビオは妙に深くうなずいた▼彼は問わず語りに、義理の姉妹の話を始めた。彼女は日系人と結婚して20年間も愛知県を中心に働いたが、東日本大震災後に「地震がないところへ」と帰伯したという。彼女は今45歳というから、二十歳過ぎからの20年間の働き盛りを日本で過ごした訳だ▼デカセギ資金を元手に、夫婦でサンパウロ市東部に文房具屋を開店した。ところが「1カ月目に拳銃を持った少年が強盗に押し入り、彼女は撃たれて重傷を負った。一命こそ取り留めたが、歩くのに支障が残る身体になってしまった…」という▼帰伯当初、皮肉なことに、彼女は「日本は良い国だけど地震がね…」と言っていたという。コラム子の「治安がね」との言葉が、彼には呼応するように聞こえ、深くうなずいたようだ▼この事件がきっかけとなり、彼女は精神状態が不安定になり―詳細は分からないが―長年連れ添った日系の夫と別れてしまったという。「地震は天災だから仕方ないが、強盗は―」などと帰伯決断に関して意見が異なり、夫は日本に戻ったらしい。当地で新しい人生は切り開こうとする彼女を、ファビオは「人生のゲレイラ(女戦士)だ」と評したのを聞き、今度はこちらがうなずいた。(深)