昨年末から年初にかけて、約1カ月の休暇をとった。年に1度、思う存分羽を伸ばせるのがブラジルの良さだ。いや、むしろそれが世界の標準かもしれないが▼今年は、バイーア州都サルバドールを訪ねた。海が望めるホテルに泊まり、歴史地区ペロウリーニョを周遊し、リオ・ベルメーリョ区で旨いと評判のムケッカと作りたてのアカラジェを賞味し、舌福(ぜっぷく)を味わった。町の美化という面ではサンパウロ市以下かと危ぶんでいたが、地元住民が利用するゴミためと化した海岸部を除いては、道路の整備や掃除が行き届いていて、むしろ快適だった▼「くれぐれも気をつけて」と同地出身のブラジル人や旅行社から言われた治安は、観光最盛期だったせいか、要所要所で警察が目を光らせており、スリに遭うこともなければ、浮浪者にたかられることもなかった。主要な収入源である観光業を維持すべく、行政も力を入れているのだろう▼治安を体感するのも旅行のうち―と言えるだろうが、昨年、警察官がストを起こして殺人件数が急増したというニュースはまだ記憶に新しい。何事もなく無事に帰聖できたことが、まずはありがたい▼市民生活が全国どこでもさして変わらない日本と違い、当地では観光地と一般市民の生活環境に大きな隔たりがあるようだ。観光客に人気のプライア・ド・フォルテなどは、ビーチも最寄りの集落も整然としていて〃人工の楽園〃のよう▼庶民の生活や文化を体験するのが旅行の醍醐味であり、人工の装いばかりでは少々趣に欠ける―。とは言え貧民地区に足を踏み入れるのは怖い。人跡未踏の地を冒険したとか、インディオの部落を自力で訪れたとか、そんな移民の武勇伝が少しうらやましくなった。(阿)