「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にしたほうがいい」。産経新聞に掲載されたこんなコラムが今、話題になっている。「居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」と書くのは作家で日本財団の元会長の曽野綾子氏である▼それは数十年前に訪れた南アフリカの一風景から、確信したという。ヨハネスブルグにあった白人専用のアパートに黒人が住むようになった。白人は核家族だが、黒人は大家族だ。数人が住むよう設計されたスペースに数十人が住んだ結果、水不足が置き、白人は引っ越し、黒人しか住まなくなった。だから―と冒頭に繋がる。かなりの暴論と言ってもいい▼コラムは、「『適度な距離』保ち受け入れを」となっているように、「日本への移民受け入れ緩和を」が要旨なのだが、人種住み分けを説く。世界中で恵まれない人に支援活動をしてきた日本財団の元トップがアパルトヘイトを是としたのだから、海外の目ディアも報じた▼偶然だろうが、掲載日2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて25年目にあたる。アフリカに関する活動を行うNGO団体は、「南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います」と声明を出し、抗議している▼ブラジルに住み、デカセギの事情も知っているとこの主張は興味深い。長く住む読者はどう感じるのか聞いてみたいものだ。(剛)