邦字新聞は報道ということもだが、移民の歴史、日系社会の記録を残すという使命を持っている。本紙で節目を振り返る特集記事や、移住地の歴史や現状をレポートした連載記事などが多いのはそのためだ。そのなかでも多くのコメントを残すように心がけている。異文化で生活するなかで到達した人生観など傾聴に値するものも多い。そうした生の声はあと10年もすれば聞けなくなる▼これらの「証言」は移民を受け入れざるを得なくなった将来の日本に対するメッセージにもなるし、多文化共生へのヒントにもなるのはないかという思いで紙面づくりを行っている。肩肘を張らず、いつかは役に立つかも知れないな―程度の思いではあるのだが▼足元を見ると、本来伝えるべきは次世代の日系社会である。というわけで移住の歴史を伝えるため、ポルトガル語書籍化事業を進めている。昨年出版した「共生の大地アリアンサ」もそのうちの一冊だ。ただ、期待していた反応とはちょっと違うな、というのが実感だ。伝え方の問題かも知れないが▼日本にいても、祖父母の出身が九州や東北出身だからといって、その歴史や文化に関心を持つ人は少ない。なぜ一、二世代前が現在住む場所に移ってきたか。他の国となると余計に関心から遠のくのかも知れない。繰り返しになるが、いつかはーの思いだ▼意外な反響はあった。新聞広告を出したところ、「日本語版が欲しい」という問い合わせが相次いだ。本紙や本屋で販売中だ。読んで伝えたいと思ったら子や孫にポ語版を―。ポ語であれば捨てることは少ないだろう。いつかは―の思いを共有したい。(剛)