先週末、茨城県の農道で中国人実習生が集団に襲われ、殺された。ニュースを見た瞬間、「中国人憎悪がここまで来たのか」と背筋が凍りついた。おりしも春節で中国人観光客が日本中で〃爆買〃をしている最中…。領土問題で中韓との確執が深まり、ネット上の暴言やヘイトスピーチ(人種差別発言)という形で憎悪が噴出している。後で犯人は日本人ではないらしいと分かり少々ほっとしたが、ありえない事態ではないと思った▼このニュースを見て、関東大震災での朝鮮人虐殺を思い出した。当時、朝鮮人に対する偏見や差別という下地があった所に、「朝鮮人が暴動を起こした」との流言が飛び交い、自警団による集団暴行が発生した。不安定な世情において、「朝鮮人が恨みを晴らしに来るのではないか」という不安が煽られ、「正当防衛」という建前で憎しみが放たれた▼常日頃、当地でゲイが殺されたという報道を見る度、その非人間的な蛮行に胸を痛めていたが、半世紀前の日本でも同じことが起こっていたのだと、ふと思った。事実に基づかない先入観や架空のイメージは、社会全体の風潮や価値観を知らず知らずの内に侵食してしまう▼自警団が暴走する中、朝鮮人を匿った日本人は、朝鮮人を雇うなど普段から関わりのあった人々だったとか。流言によって作られた架空の朝鮮人像に踊らされなかったのは、血の通った繋がりがあったからだ▼他国と良好な関係を築くには、やはり個人と個人が直接に触れ合える草の根交流が大切だ。日ブラジル交樹立120周年を機にビザの相互緩和などをもっと積極的に進め、両国の理解と絆が更に深まることを願いたい。(阿)