前回ピーター・ドラッカーの「企業は環境適応業である」という箴言を引用したが、さらに、ブラジルで成功するにはドラッカーの次の2つの言葉が重要になる。
最初は、「ビジネスの目的の正しい定義はただひとつ。顧客を作り出すことである」。顧客なくしてビジネスなしであり、企業にとっていかにマーケティングが大事であるかだ。日系社会だけではなく、継続的にブラジル人社会において顧客を創造し続けることが重要だ。ブラジルは通常の営業だけではなかなか顧客を創造できない。ブラジルで顧客を創造するということは、ブラジルの大手企業の経営層や業界の専門家たちの中にアミーゴを作るということだ。もしくは、その層とつながりのある専門家たちとチームを作って営業することよって初めて、継続的に顧客を創造することができる。
「誰かが勇気ある決断をしなければ、どんな事業も成功しないだろう。」がもう一つの言葉だ。ブラジルにて支社を立ち上げるのは、新しい事業を始めるのと同じぐらい難しい決断の連続であり、欧米の大手企業は,ブラジルでの成功を幹部への登竜門としているところも多い。しかし、日本企業の場合、ブラジルは、欧米、アジアの次に進出をしているケースが多く、アジアと同様の扱いになる。ところが前回述べたように、ブラジルは欧米に近く、競争が激しく、日々即決即断を迫られる国だ。法律も年中変わる。取引会社の言うことも、すぐに変わる。インフレでどんどん物価も上がる。このような国で即断しなければ、金銭面、信頼面で大きなロスにつながる。このブラジルの現状を本社が理解するのは難しいので、現地のリーダーが環境適応するための勇気ある決断をしなければブラジルでの成功はおぼつかない。金融面においても、現在の高金利を活かせば年利10%前後のリターンがあるが、日本企業の多くは額に汗して稼がない「財テク」は悪とみなして却下されるか、余分のお金を投資しない。事業利益で10%を出すのは大変なので、論理的、戦略的に当然として行っている欧米・中韓企業に対して、サッカーで2人がレッドカードをもらって、11対9で戦っているようなものだ。ここでも、自社の常識を覆して、環境に適応する決断が必要となる。
実はドラッカーは、エンブラエールの創業者で社長もつとめたブラジル産業の父とも言えるオジリス・シウバ氏と親交が深かった。あまり知られていないが、1980年代後半に中国の近代化施策を練るために鄧小平が招聘した三賢人のうちの二人であり、GDP世界第2位に成長した今の中国のグランドデザインを作成した。ドラッカーは早い時期からブラジルにも注目し、エンブラエールの素晴らしさ、ペトロブラスの将来性、そしてハイパーインフレを乗り越えて、今後ブラジルが著しい発展をすることを見抜いていた。今は苦境に喘いでいるペトロブラスもヴァーレも、民営化によってこの約20年で事業規模が10倍近くになっている。「ブラジルは問題だらけだが、私はブラジルの未来の発展にはいつも楽観的である」と常々ドラッカーは言っていた。