ブラジルを襲う電力不足危機の裏側で、周辺諸国にも思わぬ影響が広がっている――1月下旬、各地の水飢饉で悩んでいるブラジルは方々の発電所の水源ダムの水不足に見舞われ、国内の電力供給が充分に間に合わず、緊急対策として亜国(アルゼンチン)のガラビー電流電圧(ヤシレタの電流は50Hzでブラジルは60Hzなので)変換ステーション経由、ヤシレタ水力発電所より平均165メガワット/hの電力を南大河州ガルーショ郡で輸入していた事が判った。
正確には各地で停電が頻繁に生じた1月20日(火)の事で、亜伯両国はエネルギー協定に依り電力需要ピーク時間帯の10時AMから17時PMの間で、特に14時48分には最高998MWの供給電量に達した。
これはブラジルのONS(全国電力システム運営機構)の速報に基く情報である。
なお、この亜国によるヤシレタ電力のブラジルへの譲渡は、パラグァイ(巴羅貝=巴国)に属する生産電力からの割譲であって、双国条約で禁じられている明らかな転売である。
巴亜条約で禁止のはず
噂によれば、アルゼンチンはこの売電に現行の市場価格であるMWh当り400ドルで取引したものと言われる。パラグァイはブラジルとの電流電圧変換回路を持たないために、それが出来ない。
そのような鉄面皮なボロ儲けをしながら、アルゼンチンは一方では1億3千万ドルのパラグァイに対する余剰電力引受け代償金の延滞及び、ヤシレタ双国水力発電所建設資金のパラグァイ側の債権19億ドル(亜EBISA対巴EBYの2013年末現在の負債勘定。ヤシレタ条約アネックス〃C〃の見直しに関連)の決済は、いまだに見送ったままである。
今年になってCammesa(亜国卸電力市場管理会社、仮訳)がEBY(パラグァイ側ヤシレタ双国企業)に初めて通達越した書状によれば、アルゼンチンは2002年からガラビー・ステーション経由でブラジルへの電力輸出を確認しており、正に亜国はヤシレタ条約の違反を犯しているのである。
同社の説明では、亜国とブラジルの電力補充約定(エネルギー協定)は相互の緊急時に限った備えの為であると云うが、事実は既に過去10年来ほぼ経常的にアルゼンチンはヤシレタの電力をブラジルへ供給しているのだ。
ちなみに、ヤシレタ条約では当事国双方は発電所生産総電力の半分をおのおの分ち合い、かつ使用余剰分は優先的に相手当事国の需要に当てるべきとし、第三国への売電は不可とする~云々、となっている。
〃知らぬが仏〃の巴当局
EBY(パラグァイ)の元顧問ヘルマン・エスカウリサ技師の意見は、パラグァイがアルゼンチンの国内需要に譲渡した電力を、ブラジルへ転売する事は条約違反であるのは明瞭で、この事実をパラグァイ当局が感知していなかったとは思えないと語った。
「我がEBYは嘘を吐いている。外務省もANDE・電力公社も然りで、パラグァイの関係当局者は皆このアルゼンチンの違法行為を見て見ぬ振りをしているのだ。これは重大事であり、カルテス大統領はEBYのフアン・スチマルコ総裁、ANDEのビクトル・ロメロ総裁やエラディオ・ロイサガ外相等の責任を質(ただ)し、即解任すべきである。彼等は決して〃知らぬが仏〃を決め込む事は出来ない。職務を全うし、約定条件を亜国をして遵守せしめる為にこそ、国民は彼等に高級を支払っているのだ」と中々厳しい。
見ない振りの見返りは天文学的高給か
他方、同じくANDEの元コンサルタント、ウーゴ・レスメ技師は、「今度のヤシレタ電力のアルゼンチンによるブラジルへの横流し事件は、新にパラグァイ国が戦略的エネルギー資源の主権を踏み躙られた以外の何ものでもない」と評した。
そして、「我が国はヤシレタ条約で正当に得ている技術的な運用、行財政運営上の50%分に当る権利を、何ら平等に行使できないでいる始末を遺憾とする」とも述べた。つまり、「パラグァイ側EBYの歴代当局者はアルゼンチン側の利害を支持、又は弁護する事はあっても、我が国益の事は更々念頭にないのだ」と辛辣である。そして、「そのサラリーたるや我が国の如き第三世界の社会には不相応で不道徳な天文学的高給であり、決して正当とは云えない」と断じた。
さらに「例えば仮に、効率性と生産性を第一義とする理念の民間企業であれば、EBYの無能な役職員のごときは何時間その職に留まって居られるか聞きたいものだ」と締め括った。
最近AISEP(パラグァイ電気部門技術者協会、仮訳)は、既報の日本の円借款に依った「イグアス・ダム機械化プロジェクト」が最終的にキャンセルに至った件について、政府のその英断を評価すると共に、国家の経済社会開発の原動力に資するが為に、電気部門強化振興の国策を確立すべく、オラシオ・カルテス大統領に文書をもって示唆し所信を述べた。
その趣旨は「幾多の電力開発インフラ工事が存在するところ、これをして国家発展の効果的かつ永続的媒体たらしむるには、総合的な分野別計画全体の内で超越した安定的な電力部門を構成しなくてはならない。それには、長期のビジョンをもってこれまでに有効に合理的に活用できなかった、豊富な我が電力資源の効率的な更なる開発の促進が必須の急務である」と言うのがそのおおむねの具申内容である。