ブラジルは今、成長の踊り場に来ている。この20年間、リーマンショックなどもお構いなしにほぼ右肩上がりに成長をして来た。人口も10年ごとに2000万人ずつ増え、個人消費は10年近く2桁成長を続けた。
その結果、1億人もの中間層が生まれ、ハイパーインフレが収まったことから分割払い・クレジットカードが普及し、消費の伸びを後押しした。成長の背景には政治の安定もあり、カルドーゾ元大統領が2期8年、ルーラ元大統領も2期8年つとめ、高度成長の16年間をたった二人の大統領で乗り切った。
しかし、2010年にジウマ大統領が就任すると、溜まっていた成長のゆがみや膿みが一気に噴出し、経済が迷走を始めた。13年にGDPの成長はほぼ止まり、14年には個人消費の伸びも横ばいとなった。
今年は、水不足やあらゆる公共料金の値上げによるインフレ率の上昇、レアル安による輸入品の高騰などにより、どちらもマイナス成長が見込まれ、それに追い打ちをかけるようにペトロブラスを舞台にした巨額贈収賄事件が発覚した。
ジウマ大統領の2期目は視界不良な船出となり、15?16年は大きな経済成長や消費の伸びは期待できない。これまで経済を牽引したエネルギー関係企業は揃って苦境に喘ぎ、大手ゼネコンも幹部が逮捕され、多額の罰則金を科されることが明らかで、両業界はすでにレイオフが始まっている。
同じく販売数が世界第4位となり、景気拡大の象徴であった自動車産業も2年連続でマイナス成長となり、生産と人員を縮小している。
これらは一見すると悪いことのように見えるが、ちょうど20年間の成長から次の成長への脱皮の時期であり、レイオフも新規参入者にとっては、優秀な人材を比較的安い賃金で採用するチャンスとも言える。
また、12年にはブラジルで一番の資産家と言われた、エイケ・バチスタのグループが昨年破綻したように、この20年で栄華を誇った企業の衰退により、業界地図が塗り変わる時である。同時に贈収賄事件の発覚により、これまで財閥的企業群によるカルテルに近い構造があった業界も自由競争に変わりつつあり、参入障壁が次々と低くなっている。
20数年間ブラジルを見てきて、90年代初頭のハイパーインフレ時代に比べれば、今の社会は格段に良くなった。GDPは世界7位であり、内需市場も日本の半分まで来ている。ハイパーインフレ時に、日本企業はバブル崩壊と重なったこともあり、その多くはブラジルから撤退してしまったが、ハイパーインフレはその後程なく収まり、一気に成長軌道に乗った。
その頃に進出した韓国勢などは大きくマーケットシェアを拡大したが、ほとんどの日本企業はそのチャンスを逃してしまった。今回も同じで、実は経済停滞・消費減速の今は、海外からの進出の絶好機である。既に進出している企業も追加投資のチャンスだ。
レアル安と高い公定歩合を利用して、資金をプールするか、M&Aにて一気に市場を手に入れて、2年間戦略的に市場参入の働きかけを行えば、17年以降に来る次の成長期に一気に大きなシェアを獲得することが出来るだろう。
タグ:ペトロブラス リオ五輪 自動車 ルーラ ジウマ大統領 サンパウロ