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第21回 ブラジルの経営の怖さと美味しさ

 ブラジルの経営の美味しさを最も知っている業界の一つは飲食業であり、中でもフランチャイズチェーンで成功すると頬っぺたが落ちそうになる。その反面底なしの怖さもあるが、3月18日付のエスタード・デ・サンパウロ紙に、その美味しさと怖さを象徴するマクドナルドに関する記事が載っていた。
 内容は、労働組合が現在の社員の待遇改善を求めた要望書を、労働裁判所に提出したという、経営者には怖い話だ。社員は掃除から肉やパンを焼くという危険な仕事まで、すべてをしなければならないため、労働負荷が高過ぎる。本来はそれぞれを専門職化し、手当を出すべきである、という主張である。
 ブラジルには、日本のようにパートやアルバイトというものがない。従業員は基本的にすべて正社員で雇用しなければならず、そうすると社会保険や税金の負担を含めて、会社は従業員に払っている給与の約2倍のコストが掛かる。この要望を受け入れるとさらに個別の手当が必要となり、かつ現在の人手では足りなくなって、従業員を増やすことになり、大幅なコスト増の可能性もある。
 ブラジルのある程度以上の従業員を抱えた企業のほとんどが勝てない労働訴訟を抱えており、マクドナルドも従業員5万人の1%に訴えられても500の裁判を抱えることになるので、他の飲食企業同様、フランチャイズにしてリスクを分散している。逆に独立心旺盛なブラジルなので、フランチャイズにすると、あっという間に全国展開が可能となる。
 世界各国のマクドナルドの店舗数(2013年)は、1位が本場アメリカの1万4267店舗、2位が日本で3164店舗、3位が中国の2000店舗と続いて、ブラジルは第9位で812店舗。日本の約4分の1程度である。エスタード紙によると、15年現在ではさらに増えて、866店舗となっているが驚いたのは売上だ。
 昨年の第4四半期の売上が、4億6750万米ドル(約561億円)。単純計算で年間の売上は約2244億円となる。日本マクドナルドの売上が、14年度4463億円なので、ちょうど半分だ。店舗数が約4分の1で売上が半分。店舗当たりの売上が倍ということになる。
 それもそのはずで、商品の値段が日本に比べて2〜3倍であるにもかかわらず、店はいつもいっぱい。しかも、原料はほぼ現地調達が可能であり、肉もブラジルは非常に安いので、原材料費は日本の半分という可能性もある。
 人件費は13年のデータで見ると、対売上高比で約17・4%。日本はなんと2・5%でやっぱり前述のようにブラジルは高いのかと思ったが、よく見るとこれは正社員の分だけで、約15万人のパート・アルバイトを含めると30%を超えているようだ。
 店舗あたりの売上が倍で、コストが半分近く…これがまさに頬っぺたが落ちそうなワケである。コストや労働法だけを見て尻込みする日本企業が多いが、レアル安の今はチャンス! アメリカやヨーロッパは後回しで、まずブラジルへ来るべきだと思うがいかがだろうか?
 (アメリカ発のブラジルのマクドナルドのオーナーは、実はアルゼンチンの会社だと知ったらみんな行かなくなるかもしれないが…)

[su_service title=”輿石信男 Nobuo Koshiishi” icon=”icon: pencil” icon_color=”#2980B9″ size=”28″] 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。[/su_service]