レッサ爺さんというのは、背が低くてずんぐりしていて、赤い髪に赤ら顔……それに、俊敏で経験を積んだ目――と、まあ、こういった人物だった。だが、体は小さいが逆に大きな心の持ち主だった。
それに分別もあった。人との約束を反古にするようなことはなかったし、伸びきった犬の皮みたいな長話をするでもない。口数少なく、口を開くと出てくる言葉は断定的だった。爺さんにとって口約束こそは絶対であり、役所の書類より価値あるものだった。白は白、黒は黒とはっきりしていた。
そう言えば――
ある時、センツリオンの渡しという所に大きな雑貨屋があったが、そこには流れ者や牛追いの連中や、ガウショのならずものや牧夫たちがたむろしていた。ちょうどそこへ、レッサ爺さんが小高い丘を身軽に駆け下りて、ブチアー椰子の並木が両側に広がる柔らかい緑の牧草に影を投げかけている道に入ってきた。
雑貨屋では遠くからもう何処の誰かと言い当てている者がいた、すかさず他の一人が「もうすぐ俺たちはただでチーズが食えるぞ!」といった……。
この御仁は背の高いウルグアイ人で、髪が長く、顔は髭に埋っていた。おしゃれのつもりか、その長い髪を編んでいたが、だれかがそれをからかったりでもすると、たちまち山刀の立ち回りが始まる。それは主に退屈しのぎの遊びなんだが、相手の血を見るまで続くのだった。
レッサ爺さんはのんびりした様子で近づいてきて、馬を止めると丁寧に帽子のはしを持ち上げて、
「やあ、皆さん、よい日和で!」
ゆっくりと馬から下りた。
足を引きずる老馬の首に手綱をかけ、暑いだろうと鞍の敷き皮を二つに折って、風が通りやすくしてやった。
店に入ろうとしたとき、右手の方から出てくるウルグアイ人にでくわした。ちょうど、店の主人が挨拶の声をかけたところだった。
「やあ、ニッコさん。よく来たな! で、カングスーから来なすったか、それとも行きなさるんで?」
レッサ爺さんのニッコが答えるよりも早く、ウルグアイ人がしゃしゃり出て、カステリアノ丸出しで口を挟んだ。
「ああ!カングスーから来なすったか……そんなら……チーズを奢ってもらわんとな……!」
いわれた男は微かに笑いながら、落ち着き払って答えた。
「ああ、お前さん……チーズは近頃なかなか手に入らないだがねぇ……」
「もちろん俺たちにはな……だがカングスーの男なら、いま、ここでチーズを奢ってくれるだろう!……」
雑貨屋の主人は嫌な空気を感じとり、うるさい奴をなんとか上手くはぐらかそうとした。レッサ爺さんは顎のチョビ髭をかき、頭のてっぺんをかき、周りのみんなをチラッと一瞥し、そして売り台の後ろの店員に穏やかな口調でいった。
「いいだろう……おい、あいつをくれ!」と、すぐ後ろの棚にある、直径三三センチほどの丸いチーズを指差した。
長髪男は干草袋の上にどっかり座ると、歯をすすりながら皆をけしかけるようにいった。
「オーイ、みんな!……踊ろうじゃないか!チーズだ、チーズだ!」
(つづく)
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