相変わらずの忍耐強さで、爺さんはようやく自分の昼食の注文をした――卵と腸詰一切れ、それにコーヒーだ。それからチーズを切りはじめた。まず半分に、そして、その一つを八つか十切れくらいに切り分けた。切り終ると、みんなに勧めた。
「さあ、やってくれ!」
礼は述べたがだれも手を出さなかった。そこで、爺さんはしつこく催促していた男に言った。
「じゃあ、お前さん!……注文の品だ。遠慮はいらん!」
ウルグアイ人は立ち上がり、腰に着けていた二挺の拳銃をちょっと直して、チーズの皿に近づくと、皆に呼びかけた。
「どうしたんだ? これはもう払ってあるんだぜ!」
そういって一切れ取ると、細かく刻んで食べはじめた。
レッサ爺さんは――見かけは飼いならされた家畜みたいに大人しいが、どうしてどうして、獰猛な雄牛なのさ――縄タバコの一片を刻み始めた。トウモロコシの皮を手で揉み、刻んだタバコをそれで巻くと火打ちで火を点けてタバコを吸いはじめた。ずっと無言で、しかめ面をして、ゆっくりと時間をかけて……。
売り台の向うの端では、一人の客がふちの欠けた質の悪い鍋を買わされたと苦情をいっていた……。
六切ればかり食べると、野郎は口を動かすのをやめた。
「うまい……実にうまい!……だがもう食べられん!……」
すると爺さんは、山刀にチーズを一切れ突き刺して男につきつけた。
「これは、わしのために!」
「そうだ。お前さんのために!……」
やっとのことでその一切れを噛みくだき、飲みこんだ。
最後の一口を飲み下すがはやいか、爺さんはまた次の一切れを刃先に突き刺して差し出した。
「もう一つ、カングスーのために!……」
「ウゥ……」
「ウンもスンもない!……食え!……」
「ウウ……」
「食うんだ、この毛むくじゃらめ!……」
いいながら、レッサ爺さんは、山刀の腹の平たい硬いところで、そいつの脳天や肋骨や肩甲骨、腹や鼻などを滅多打ちに打ちすえた……。小刻みに、続けざまに、まるで硬くなった羊の皮を水に浸し、叩いて柔らかくするときみたいにだ。そうやって先ほどの干草の袋まで押して行き、膝の上に残りのチーズ皿をのせると、耳元で「食えっ!……」と怒鳴った。
ハッタリ野郎は食べた……残りくずまで食べた……。だが急に、口を大きく開け、目をいっぱいに見開き、息がつまった様子で、いま食べたものを吐き出しながら店の外へ跳びだした。土手の細道を老いぼれ馬のようによたよたしながら……姿を消した!……。
ふちの欠けた鍋の苦情を言っていたやつが、嘲り笑いながら後を追っていった。「おーい! ロクでなし!……天狗の鼻を挫かれたな!……」
それから爺さんは、持ち前のゆったりした口調で、昼飯はまだかと催促した。
「玉子と……腸詰と……それにコーヒーだ」
(「チーズを食わせろ!」終わり)