前回のコラムで、日本企業撤退の原因の一つとして、進出前の調査・フィージビリティスタディの欠如を挙げた。2点目はグローバル時代にふさわしくない日本の人事制度だ。
真の意味でグローバル企業かどうかは、人事評価=キャリアパスに現れると思っている。日本のほとんどの大企業は、海外に進出するという意味での国際化は何十年も前からされているが、真のグローバルな組織になっている会社は少ない。象徴的なのが、良くある単純な3年程度のローテーションであろう。
ブラジルのように、何をするにしても時間がかかり、生活に慣れるにも一苦労で、かつ人間的つながりが大事なアミーゴの国において、3年では何もできない。
1年目にブラジルに慣れて、ブラジル社会のことがある程度わかるようになり、2年目にポルトガル語も多少話せるようになって交際範囲も広がり、3年目からようやくやるべきことが見えてきた頃に帰国となる。
ブラジルは様々な手続きをするにも、認証を得るにも時間がかかるので、3年ではとても成果を出せない。ならば無理をせず、何も特別なことをしない方が、人事評価に汚点が残らないのでいいということになりかねない。
海外を良く知る商社はそのことをわかっている。ブラジルで成果を上げている総合商社のラテンアメリカ担当者に会うと、10?20年選手がザラである。
近年進出が多い韓国企業の多くは、片道切符。単身赴任はほとんどなく、家族で一生住む覚悟で移住する。帰国するためには、大きな成功を収めて出世し、本社のエリートコースに戻るしかないので必死に頑張る。
ブラジル側も家族ぐるみで移住覚悟で来ている方が、3年で帰るかもしれない人よりは深く付き合うことになる。家族ぐるみの付き合いになれば、ビジネスにも大きくプラスになるのがブラジルである。韓国企業が短期間で成功を収めている秘密はここにもある。
また、欧米の大手企業はきちっとしたキャリアパスが作られていて、いくつかの企業では、難しいブラジル市場で成功を収めるのは出世コースとなっている。
世界で最も税金が高く複雑で、労務が難しく、グローバルブランド間の競争も激しく、多民族で人口が多く、治安も良くないためリスク管理が大事なブラジルは、幹部養成にはもってこいの国である。
社員にとっても、ブラジルに駐在して成功した人は、次にどうなるかが見えていれば、長期の駐在も受け入れやすい。成果が問われるので、厳しいがモチベーションも違ってくる。本社もある程度結果を見るためには、権限も委譲しなければならず、本人も権限を持てばしっかりと取り組める。
本社に何でもお伺いを立て、本社を向いて仕事をするしかない現在の日本の人事評価=キャリアパスでは、グローバルで企業をマネジメントできる人材は育たないのではないか。
判断をするための十分な時間と権限を渡し、そのかわり成果を問うという、欧米のグローバル企業が行っている人事評価を導入しなければ、今後日本の多くのグローバル企業のトップは外国人になってしまう気がするし、生き残れないだろう。
それは悪いことではないが、せめて同じ土俵で戦えるようにしなければ、日本人の優秀な人材の芽を摘むことになりかねない。(つづく)