TV中継より情報が数秒早いラジオ中継を聞いていた男がいきなり雄たけびを挙げる。何のことかわからない群衆、しかしTV中継もすぐにパルメイラスのゴールシーンを映しだした。0対2から1点差に詰め寄るゴール。先週の第1試合では1対0で勝っているからトータルスコアは2対2だ。
ここはサンパウロ市西部、パルメイラスのホームスタジアム周辺のバール(軽食堂)、つまり緑色のユニフォームを着たファンがビールを飲みながら熱烈にテレビ観戦しているたまり場だ。
怒号とも歓声ともいいようがない罵声が沸きあがる。花火、爆竹、発炎筒、泣く者、わめくもの、ひきつけを起こすもの、そしてなぜか吐く者…。あたりは一瞬にして大混乱に陥った。もう何時間も前からバールの前の道路は、バスも自動車もまともに通れない。
何が困ったかというと自分の体が反応しない。興味本位でパルメイラスのホームスタジアムの様子を見にきたが、自分のチームはコリンチャンスだ。どうしても彼らと同じテンションにはなり得ない。
緑の服も着ないでひとり静かにしてると「おめぇサンチスタ(対戦相手サントスのファン)だろ!」と疑われかねないと心配していたが、どうやら自軍のゴールに熱狂する彼らに、他人のことなどかまっている暇はないようだ。
試合はその後パルメイラスが同点ゴール! トータルスコアでは勝ち越し点となるゴールを挙げた――。
と思ったらオフサイドで取り消され、そのまま終了。トータルスコア2対2のままPK戦に入り、サントスが勝利した。幻の同点ゴールから取り消しまでの一連の騒動も、PK戦後の消沈も「皆さん、もう少し落ち着いて。この世の終わりじゃあるまいし」と、たしなめたくなったのは自分が別のチームのファンで、しかも日本人だからだろうか。
興奮したパルメイラスファン同士が喧嘩を始めた。巻き込まれてはかなわない。足早に、最寄りのバーラ・フンダ駅に急いだ。(規)
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