また、別の折、車座になっておったのだが、一人が短刀で掌のトウモロコシの皮を伸ばして、編み煙草の一切れを刻み始めた。刻んだやつを掌のくぼみでよく捏ねてから、さっきのトウモロコシの皮で包んで巻き煙草にすると、自信たっぷりに陛下に勧めたもんだ。
「ひとつ、いかがでしょうか」
「いや、結構だ。その煙草はどうもきつそうじゃないか……」
「いやあ、味を知りなさらんですな!……それでは、失礼して……」
火打ちを打って火を点けるなり喫(の)みはじめたが、吐き出す煙で周りが曇ってしまった。
ある男爵が指揮官を務める連隊は、それは見事なものだった。元気盛りの若者、それもえり抜きの勇者ぞろいだった。
その男爵が、皇帝が軍力を大そう自慢げにお話になるのを聴いて、ずけずけと申し上げた。
「陛下は何とお考えですか……。こいつらはがさつなインディオの集団で、牛乳の澱(おり)と苦いマテ茶とシュラスコで育てられた……。宮廷の痩せ犬ども――水しか飲まず、自分の……腹を舐めるばかりの――とは違います!……」
この同じ男爵だが、あるとき、ドン・ペドロ皇帝は乞食に恵んでやろうと隠しを探されたが、小銭が見つからなかった。それをみた男爵は腰に巻きつけた財布つきの皮帯をはずして、陛下に差し出した。
「どうぞ、お使い下さい! 神よ! 陛下ほど情け深いお方はおられません……。自らの物を与える者は欲すれば得る、といいます……。ですが……お望みとあらば、わたくしの銀製の馬具も……いや、一言お命じになれば、わたくしの飼い馬全てでも……ただ、栗毛を一頭と鞍の敷き皮一枚を残させていただいて……」
「しかし、男爵よ、だからといって、私が貴官の望むものを与えるわけにはいかんが……」
「とんでもございません!……陛下はシャツ一枚くださいませんよ……ご多忙でシャツを抜ぐ暇もございますまい!……」
◎
ある時、行進だったが、流れの浅瀬の畔の草原で小休止を取った。ちっぽけな農園の近くだ。
そこへ、布でくるんだ包みを抱えた婆さんが、まるでボールみたいなびっくりまなこ眼で現れた。珍しげにあちこち見て回って、しまいには陛下と陛下をお守りする連中の中まで入り込んできた。
「若い方々、お早うさん! どなたが皇帝さんかね?」
「私だがね、お婆さん!まあ、すわりなさい」
老婆はだまったまま、上から下まで陛下を眺め回して、やがて、目元に笑いを浮かべて言った。
「お前様に神様の祝福がありますように! 息子よ、聖母マリア様のご加護がありますように! 生ハムを少しばかり持ってきたんですがね!」
申し分なく清潔な布包みを開くと、見るからに色艶もよく、やわらかで旨そうな生チーズだった。皇帝は礼をのべ、紙幣を一枚与えようとされた。ところが婆さんはきっぱりと断わった!
「とんでもない!……あなた様は戦争に行かれる……。うちの息子も孫ももう向こうに行っております……。私は、ただ、やっつけられたりしないようにと!……」
大きな笑い声が広がった。婆さんはまた周囲を見回して、
「カシアス将軍様もお出でだと聞いたが……どなたかね?」
「ああ、わしだよ、愛国婦人よ!……知っているのかね?」(つづく)