4月に「原発事故をきっかけにゴイアス移住した日本人」との連載ルポを寄稿してくれた日本のジャーナリスト・西牟田靖さん。その新刊『本で床は抜けるのか』(本の雑誌社)が届き、興奮しながら読ませてもらった▼本の重みで床が抜けることを心配する発想自体に、頻繁な地震や木造家屋という前提があり、日本的環境がひそむ。ブラジルのような地震もなく、レンガ積み建築ではピンとこない心配だ▼しかもブラジル書店協会(ANL)によれば全伯の書店数は2980軒、日本は1万4609軒とほぼ5倍。全伯平均で6万4千人に1軒の書店しかなく、最悪のパラー州では20万人に1軒だ。日本で書店が最も少ない神奈川県でも1万4286人に1軒。つまり、ブラジルでは無縁に近い心配事だ▼この本で知ったが、実際に床が抜けた有名人は多く、立花隆や井上ひさし(故)の実例も。ある大学教授が亡くなった後、貴重な蔵書5千冊をどう整理するかで孫が四苦八苦する様子が興味深い。孫は、その妻である祖母が存命のうちは整理できないと考えた。その理由は《夫が何を考え、何を書いたのか。その痕跡が蔵書にはある。故人の思考遍歴が蔵書には残っている。つまり、故人の分身としての本棚なのである》(105頁)と書く▼こんな本好き文化は移民にも引き継がれている。でも、悲しいかな子供世代は横書き文化に。神林義明さんの「家中に横書きの本散らばりて我が城のみぞ縦書きの山」という歌を思い出す。当地では貴重な日本語書籍がゴミとして捨てられないよう、今のうちに古本市(本紙編集部でも可)に持って行き、誰かに活用されるようにしてほしい。(深)