来年8月5日のリオ五輪開幕まであと404日。今から119年前、ギリシャのアテネで近代オリンピックが始まって以来31回目、南米大陸初開催となる今回のリオ五輪はどのような大会になるのだろうか? チケット1次抽選も終わり、当選の喜びの声、惜しくも落選し2次抽選に賭ける声が聞こえる中、昨年のW杯と同様に大会設備の工事の遅れを指摘する声も高まっている。(texto=Kimio Ido、井戸規光生記者)
07年に一旦は完成し、同年のパンアメリカン競技大会(南北アメリカ大陸の国々が参加して行う総合スポーツ大会)で使われたにも関わらず、13年に屋根に欠陥が見つかり再工事中のエンジェニャン競技場や、ヨット競技会場に指定されているものの、周辺から生活排水が流れ込み汚染状況が酷く、一向に浄化の進まないグアナバラ湾…。デオドーロ地区、バーラ・ダ・チジューカ地区の設備建設の遅れも顕著で、今すぐ始まっても大丈夫といえるのはW杯でも使われたマラカナン競技場のみといった状態だ。
大会メインスタジアムの一つ、陸上競技が行われるエンジェニャン競技場近くに住むジョアン・ルイーズ・ビエイラさん(31、経済学者)は、「07年のパンアメリカン大会に間に合わせるために、工事を急いだ。その挙句、後になって屋根の構造に問題が発覚し、今は屋根を作り直していて、当然工費もかさむ。他の国では考えられない事。五輪メインスタジアムのすぐ近くに住む者として、地域に恩恵、特に自分の子供たちにすばらしい思い出を残す大会になってほしいけど、少し悲観的、チケットは高いから一枚も申し込んでいない」という。
一切の遅延なしなら大会直前にようやく完成?
競技場だけで大会は成り立たない。観客輸送のための公共交通システム整備も遅れをとっている。当初15年末までに完成予定とされていたリオ市内とバーラ・ダ・チジューカを結ぶ地下鉄延伸工事は「今後一切の遅延が起きなかった場合」でも、大会直前の16年5月にようやく完成見込みだ。
記憶に新しいのは13年11月、完成直前だったサンパウロのW杯スタジアムで、大型クレーンが建設中のスタジアムに倒れ掛かり、それまでも遅れていた工事がさらに遅れて、一部の屋根の設置などを諦め、ギリギリ直前にやっと体裁を整えて、本番に突入したケースだ。今回も期限に間に合わせるべく、突貫工事で同じことが起こらないとも限らない。
オリンピックのような超大型スポーツイベントは、開幕まで1年を切ったころからリハーサルイベントを各種目で開催して、ボランティアのスタッフや誘導員の訓練を行うのが通常だが、競技場も交通システムもギリギリの完成では、それもままならない。
しかし、だからといってリオ五輪は期待薄だといえるだろうか。施設が全て前倒しで完成、誘導のリハーサルも万端、W杯やオリンピックでそんなことができるのは世界でも日本だけだろう。ただし、その評判も2020年東京五輪のメイン会場、新国立競技場建設を巡る混乱で多少揺らいでいる。
日本の対応との違い
02年のW杯で、外国から来たファンを全てフーリガンだと思い込み、決勝戦を前に高揚し、歌い叫ぶドイツ人に対し、警察が「騒ぐな!」などと無粋な対応をとったり、「全く文化が違う人に大勢で来られても困る」と「外国人お断り」の張り紙をした飲食店があったのもまた日本だ。
カリオカは、その点が違う。スタジアム建設が遅れても、建設資材が片付けられてなくても、会場に着くのにいくら難儀しても、今のところ、市民はさほど頭にきている様子ではない。
五輪観戦に来伯したら、競技場とホテルの往復だけではもったいない。市民はお祭り騒ぎに寛容であり、外国語がうまいわけではないが、杓子定規の対応でファンを縛るようなこともない。
前述のエンジェニャン競技場周辺に住むカルロス・シャビスさん(61、自営業)は「五輪にはとても期待している。ただ、ちょっと競技場の工事は時間がかかりすぎだがね、ひねくれた見方ばかりすることは好きじゃない。バスケとバレー、開会式に申し込んだ。確かに安くないけど、一生に一度のオリンピック、W杯のときより多くの国からファンがやってくるだろうし、楽しみたい。ここで生まれ育った私は、リオの街を誇りに思っている。世界中の人に来て、楽しんで帰ってもらいたい」と語った。
サンパウロ州在住の元体育教師、ルース・ヴァレンチさん(84)は「オリンピックを見るための犠牲は惜しまない、これまでに68年メキシコ、72年ミュンヘン、76年モントリオール、80年モスクワ、84年ロサンゼルス、2012年ロンドンと、6回見てきて今度は7回目。オリンピックは他のどのスポーツイベントとも違う。種目関係なく、最高レベルのアスリートと世界中から集ったファンの情熱が交じり合って、競技場は祭典の場と化す。今回も陸上、ビーチバレー、閉会式のチケットは確保した。開会式の感動は言葉にできない。あれこそ、まさにスポーツだけができること。世界が一つになるの。まだまだ抽選に申し込むつもり」と興奮を隠さない。
「東京五輪のために貯金を始めたよ!」
五輪の魅力にとりつかれたファンがもう1人、リオ市在住のブルーノ・ボルバさん(37、エンジニア)だ。ボルバさんはチケットを2万1千レアル分申し込んだが、当選したのはその3分の1だった。「柔道、陸上、テニス、バスケは取れたけど水泳が外れた。2次抽選も申し込むし、自分の重複したチケットを人と交換して手に入れたい」
そんなボルバさんは、前回の12年ロンドン大会では当地の友人の家に泊まった。来年はそのお返しにその人を自宅に泊める予定だ。
「僕は完全にスポーツ中毒。ロンドン大会に行ったことはまるでディズニーランドに行ったのと同じだった。もうこれからは4年おきに五輪観戦に行くつもり、20年の東京も外せない。休暇も申請しているし、貯金も始めている」と目を輝かせる。
リオ五輪は20年東京大会の前の大会、閉会式での五輪旗の受け渡しをはじめとして、スタジアム、街角、いたるところで「次は4年後、東京で会いましょう!」の文字が躍り、関連イベントも開催される。
次回開催地から舛添要一東京都知事の来伯も確実視されており、安倍晋三首相の再来伯の可能性も取りざたされている。リオと東京を結ぶ絆が一気に深まる年になりそうだ。