足跡をたどるのが最も困難な笠戸丸移民について、これほど足を使って調べ上げた本があっただろうか――。本紙が編集して沖縄タイムスから昨年末に出版された『未来に継ぐ裔孫』(赤嶺園子著、80レアル)は、笠戸丸で渡った沖縄県人移民325人の生涯を丹念に記した貴重な記録集だ。サンパウロ州はもとより、リオ州、南麻州、遠くは亜国や沖縄県まで家族を訪ね、死亡年月日を確認するために墓まで探しまわった▼調査者が女性だけに、男性中心の従来の移民史には出てこない女性に対する具体的な記述には目を覚まされる。姉妹の「身代わり」で渡航した例もあり、驚くべき逸話が織り込まれている。騙されて旧円をトランク一杯買わされながら愚痴を言わず、子孫から深く感謝された、涙なしには読めない田場ウシの生涯など珠玉の逸話が掘り起こされている▼編集作業を手伝いながら「個人的なもの」としてはあまりに膨大すぎる調査量だと気が遠くなった。「多忙な仕事の合間をぬって、なぜそんな時間と経費のかかることをしたのか」と赤嶺さんから持ち込まれた原稿を読みながら考え込んだ▼元々は移民百周年を目指して始められたものであり、この「調査」自体が一種の「先祖供養」「慰霊」だと思い当たった。線香に火を灯すように調査票に記入し、巡礼が聖地を回るように笠戸丸子孫の家から家を探し歩いたに違いない▼だから本の行間には、墓石から墓石へと目線を移しながら、先人の労苦に想いを馳せた調査者が持つ先達への畏敬の念が込められている。沖縄県人が持つ先祖への想いの強さ、崇敬心が形になったような本だ。一読をお勧めする。(深)