ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(41)=密輸に生きた男=《3》=無抵抗の頭領に一斉射撃

ガウショ物語=(41)=密輸に生きた男=《3》=無抵抗の頭領に一斉射撃

 その悪事の先頭にいたのがジャンゴ・ジョルジだった。若いときからだ、その死に至るまでな。わしはずっと見てきたんだ。
 さっき話したように、婚礼の前日、ジャンゴ・ジョルジは娘の嫁入り衣装を取りに出かけて行った。
 昼が過ぎ、夜が過ぎた。
 次の日、つまり、婚礼の日、昼が過ぎても何の音沙汰もなかった。
 家には大勢の招待客が集まっていた。村の者、近所の者、婚姻保証人たち、地元の権力者たち、若者仲間など、三日間は踊りまくるつもりでやってきていた!……マテ茶やブチアのリキュールが飲み交わされていた。
 かまどの回りではアコーデオンが、軒先ではギターが、応接間ではオルゴールが鳴り響いていた。
 日が沈みかけたころには、みごとに盛られた皿の重さで、テーブルがしなうほどの料理が並べられていた。
 女主人は旦那の不可解な遅れに気をもんでいたが、見た目には落ち着いていた。
 ときどき、息子の一人に父親の姿が見えるかどうかと、雑木に覆われた砂道のかなたまで探しに行かせた。
 一室から新郎がまっさらのワイシャツに糊のきいたカラー、燕尾服という姿で現われた。冷やかし、からかい、羨望の声がどっと上がった。
 そんな中、花嫁だけが欠けていた。父親が取りに行ったまま、まだ届かない真っ白い花嫁衣裳と靴、ヴェールやオレンジの花束がないため、みんなの前に現われることができなかったのだ。
 娘たちははしゃぎあい、老婦人たちはこそこそ囁き合った。
 日が暮れた。
 花嫁が泣いているという噂が伝わった。みんなが心配で大騒ぎしていると、――なんて気立ての良い娘だろう――彼女はきれいにセットされた髪にサラサのふだん着を着たまま部屋のドアまで来て、幸福そうな笑顔を作りみんなに微笑みかけたんだ。
 微笑み、そう、口もとに笑みを浮かべていたが、まつげの長い目からは大粒の涙が零れ落ちていた……。
 笑ったり、泣いたり――いったい、こんなとき、何で意味もなく笑ったり、泣いたりするのだろう……そんな矢先、前庭の方からだれかが叫んだ。
 「ジャンゴ・ジョルジ親方が着いたぞ。だれかといっしょだ!……」
 ざわめきが起こった。だが、娘は自分が笑ったり泣いたりするのはなぜなのかと考えながらドアの前から動こうとしなかった……父親が真白い花嫁衣裳やヴェールや花束を持ってきたというのに……。
 夕暮れが迫って、ともし火が点けられた。
 ちょうどそのとき、前庭に一行が到着した。しかし、まったく無言のままだった。
 みな口を閉じ、沈黙を続ける一方で、目だけは大きく見開かれていた。
 そしてわしらは、一行が一人の男の、まだポンチョに包まれたままの体を馬から下ろすのを見守った……。
 だれも問わず、だれも答えなかったが、みんな、すべてを悟った……宴が終わりを告げ、悲しみが全てを包み始めていることを……。
 遺体を宴会場の新郎新婦のために飾りつけられたソファーに運んだ。すると、到着した男たちの一人が口を開いた。
 「警備兵がかかってきた……荷車を取り上げた……そして、かしら頭領を殺しやがったんだ……。頭領は独りで先頭を行くラバに向かい、分けて持ってきた一つの包みを降ろした……そして、それを体に縛り付けたんだ……。そのとき、一斉射撃を受けて……無抵抗なのにだぞ……ゴロツキどもが!……遺体を奪い返すために、一戦を交えなけりゃならなかったんだ!」
 花嫁の母はジャンゴ・ジョルジのジャケットをめくり上げ、包みを解き離して、それを開いた。
 そこには真っ白い花嫁衣裳、靴、ヴェール、オレンジの白い花束があった。
 それらすべてが鮮血で……真赤に染まっていた。まるで、真っ白で美しい品々に奇妙な模様を赤い糸で刺繍したように……まるで、馬の蹄に踏み潰されたアザミの花のように……。
 ようやくその時、泣き喚く声が家中に響き渡った。(「密輸に生きた男」終わり)