樹海

 広島の原爆ドームは、戦争の悲惨さを伝える平和の象徴として、世界中に知られている。日本三景の一つ、厳島神社も有名だが、広島といえばやはり市内にそびえたつあの威容が誰のイメージにも真っ先に来る。しかし戦後まもなくは、市民感情的にも取り壊しを求める声も多かったようだ。当然のことだろう▼「あの痛々しい産業奨励館だけが、いつまでも、おそるべき原爆のことを後世に訴えかけてくれるだろうか」。1960年に急性白血病で亡くなった16歳の少女が残した日記が、世論を動かし、原爆ドームの永久保存が66年の今日7月11日、広島市議会で決議された。つまり21年間も取り壊しの議論が行われたわけだ。今年被爆70年。広島でも被爆の歴史を知らず、落書きをするなど心ない事件も起きており、被爆体験を伝える動きが続けられている▼JICA横浜・海外移住資料館は18日から、広島、長崎で被爆後、ブラジルを含む南北アメリカへ移住した移民証言や歴史などを紹介する企画展示『終戦70年企画展示 海を超えたヒロシマ・ナガサキ』を開く。カナダ、アメリカ、メキシコ、ペルー、ボリビア、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイに移住した被爆者の体験談も紹介されるようだ。9月27日まで▼昨年、第6回が行われたレジストロの『平和灯ろう流し』が中止になっており、残念だ。しかし、10月に県知事を迎え創立60周年を祝う広島県人会が、広島平和記念資料館提供によるポスター展を開く。場所は未定のようだが、多くの市民に足を運んでもらい、今年の節目に平和を考える機会になればと切に願う。(剛)