「実をいうと、わしは自分の女を骨投げの賭博に賭けるのを見たことがある。その事で死者まで出たのさ……全くすごい賭けだった!」
街道に沿った村のはずれ、数本のイチジク の老木が枝を広げて陰を作っていた。その木陰にアハニョンと言うちっぽけな居酒屋があった。つぶれかかった店だが主人は抜け目のないヤツで、わしの見るところ脱走兵らしく、スペイン人か異国人に見えたが、何かと金の臭いを嗅ぎつけ、儲けには長けていた……。
やたらと口数は多かったが、半面にブツブツ祈ったり十字を切ったりする男で、いつも豚よろしく上目使いで嗅ぎまわっていた。ヤツにとっては何でも商売にならないものはない。盗品を買ったり、物々交換したり、賭博の賭け金を利子つきで貸したり、いつも釣り銭をごまかして少なく払ったりした。
ときどき、草競馬を催した。馬小屋の横に三丁ほどの競走路を自分で造った。よそ者のアコーデン弾きを雇えば、それだけでその場は盛り上がった。とにかく人を集めればいい。牧夫、流れ者、あぶれ者、荷車引きを集めて、火酒、食い物、菓子類を売るのが目的だった。
夜にはいろいろな賭けトランプができるように、上等のテーブルを用意して、勝者から歩合を取ったりした。機会があれば、大がかりなダンス・パーティーを催して、近隣の女たちを有頂天にさせた。
これでヤツがどんなに抜け目ない男か納得がいっただろう。
あるとき、彼は銀貨二、三枚も賭ける大がかりな競馬レースを計画した。大勢集まったが、みんな軽薄なガウショばかりだ。折悪しく、雨になった。
雨で競馬路はだいなしになるし、ゲーム用のテーブルに掛ける布は雨漏りで濡れてしまい、すべてめちゃくちゃになってしまった。
それで、わしらは店に向かい、イチジクの木の下や作業小屋に寄り集まっていった。
にわか雨が去り、地面が乾いたとき、好き者の何人かが骨投げをやろうと言い出した。
お前さん、どうやって骨を投げるのか知っているか?
こういう具合にやるんだ。
まず地面を選ぶ。骨が跳ね返されるほど硬すぎず、刺さってしまうほど柔らかすぎて埋まってしまうような砂地でないところだ。
柔らかいが、しっかり固まった地面が適している。コートは幅がひとひろ一巾(二、二メートル)もあればいい。長さは三巾(六、六メートル)ほどで、その真ん中に両端を棒にくくった縄の境界線を置く。ただ地面に線を引くだけでもいい。賭けをやる者はそれぞれコートの端から真ん中の線を目がけて骨を投げる。こっち側の者は向こう側に、向こう側の者はこっち側に投げるわけだ。
骨はターバと呼ばれている、牛の膝の部分で、勝負は「当たり」と「外れ」があるだけだ。
外れは骨が丸くなった方が下に向いておちたときで、こうやって投げた者は負けたことになる。当たりは平たい方が下を向いて落ちたときで、文句なしに勝ちというわけだ。
つまり、外れは負け、当たりは勝ちで、こうしてゲームは次に進んで行く。
コートを分ける中心線の横に「元締め」が坐る。元締めは賭け金の計算役で、勝った者に金を渡す。元締めもあげ銭を払う――居酒屋のオヤジにな。元締めになるのは、たいがいずる賢い、面の皮の厚い、くだらん冗談ばかりいっている爺さんだ。
どうだい、すごい賭け勝負だろう!
だから、中には一日中まるで酒に溺れるみたいにこの勝負に夢中になって、次々と自分の持ち物を賭けに投げ出してしまうヤツもいる。ボリビア金貨、馬具、馬、ポンチョ、拍車など、何でも賭けるわけだ。ただし、山刀と拳銃は別さ。どんなに賭け好きでもそれはしない。負け犬がその場を去るとき、勝ったヤツらにあなどられないための、護身のためなんだ……。気をつけろよ……よくよくう気をつけるんだ、頭に血の上ったガウショがコートを後にするときにはな!……
さて、その日、オゾロと赤毛のシッコがターバを投げて勝負を争うことになった。
オゾロは色の浅黒い話し好きで気ままな男、競走馬の調教師だが、喧嘩っぱやいヤツだ。あちこちの牧場に出かけて行っては、女たちを集めていろんな話をして聞かせるのが好きで、そういう女たちの輪に加わってマテを飲んだりしていた。
一方、シッコの方は、パルマス農場の下働きで、荒馬を馴らしたり、野生の牛を家畜用に馴らしたりする仕事をしていた。農場の片隅に、ラリカという小ぎれいだが浮ついた女と暮らしていた。
その日、アハニョンのお祭りさわぎに彼女を連れてきていた。
二人の男が投げ合っている間、モレナは他の娘たちと連れ立って、会場の中をしなを作って歩きまわったりしていた。
ギターがいくつも用意され、ギター弾きも集まってきていた。お祭気分は盛り上がっていった。
二人は投げ続けていた。シッコの方が立て続けに負けていた。
「外れだ!またか!……ちくしょう!……
「当たり!よし、勝ちだ!」とオゾロが繰り返す。
「栗毛を賭けるぞ。馬飾りごとだ。どうだ?」
「よし、来い!」
「外れか!……見物の中にだれかオタンチンでもいやがるのか!……」
この明らかな侮辱にだれか言いがかりでもつけるかと、素早く見物人を見回したが、一人として挑戦に応じようとする者などいなかった。
「お前の月毛にラリカの雌牛二頭を賭ける!」
「それじゃ、少ない、シッコ!……もっとも、彼女本人なら別だが!……」
「ふざけるな、オゾロ!……待て!うん、賭けよう!」(つづく)
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