荷車の一団は広場の真ん中に止まった。ただちに案内役の男が進み出て、通行証やその他の書類を差し出した。男が言うには、やってきたのはある未亡人で、政府に宛てた書簡を持参した。捕らえられて家畜にされた牛や馬について、そしてその損害云々、といった内容の訴えが、延々と、もつれた縄よろしく書かれていたそうだ……
この出来事は、たちまちわしらの好奇心に火をつけた。
そのご婦人が持ってきた書類についてだがな、将軍はすぐに代議員や大臣を呼び、大広間に閉じ籠り、やがて一人の大尉を呼んで、女傑を迎えに行かせた。
かくしてご婦人が現れる。扉のところで待ち構えていた将軍は、一歩引き下がって仰々しくお辞儀をした。そしてふたりで他の面々が待つ部屋へ向かった。
綺麗な女だったかって?……そりゃあ別嬪さ! ガウショらしいガウショなら馬の後ろに乗せて、女神が地に降りてきのだと信じて疑わないだろうさ!
そのご婦人はな、背筋をしゃんと伸ばして、息もつかせぬほどよくしゃべった。まるで日の光が水の中を突き抜けるみたいな目で、わしらを見つめた。
締め切った広間の中では男たちの野太い声がしていたが、やがて静まった。小声で話し合っているようだった。そんな中、見事なスペイン語でさえずる甲高いご婦人の声だけが響きわたった。
しばらくして、集まっていた人々が立ち上がった。同じ大尉がご婦人をお連れした。次の朝には荷車も牛の群れも一行も姿を消していた。
後になって、あのご婦人は使者として遣わされたのだと知れた。
勇ましさではリヴェーラが際立っていたが、抜け目のないのはオリーベの方。しかしふたりともずる賢さではどっちもどっちといったところだ……。
だから、カラムル共にそれと感づかれないように、男ではなく、あの女傑を使者として送り込んだのが、ふたりのどっちの仕業かはわからなかったがな。
真相は闇の中さ……。
その日以来将軍に対するよからぬ噂が立った。
誰かの嫉妬か、陰謀、裏切り、それとも恨みなのかわからないが、事は議会を紛糾させるに至った。あるささいな事で将軍とオノフレ・ピレス大佐とが衝突した。将軍は相手にせずにぷいと背を向け、大佐は軍靴の踵を力いっぱい踏み鳴らしてその場を去った。
一八四三年にはまた厄介なことが起きた。大物のパウリーノ・フォントウラが殺された時のことだ。将軍とオノフレ大佐とが、またも咆哮を飛ばしあった。大佐はすぐに頭に血が上るお人でな。
しかし、その後すぐにカシアス男爵の率いるカラムル隊が行進してきたから、主だった指導者たちはみな各地へ散っていくことになった。
そして戦が始まった!
戦闘はサン・ガブリエル、ヴァカリア、ポンシェ・ヴェルデ、リンコン・ドス・トウロスなどで火花を散らした。政府はアレグレッテを出て、再びピラチニュウムに移った。そこでまた一戦を交え、そしてアロイオ・グランデ、ジャグァロン、ミッソンエス、クァラインの上流、カングスー、パイ・パッソへと闘いが続いた。
どれほど多くの血が流されたことか!
そして軍隊がイビクイーの彼方に集結して進軍を始めたころ、将校達の大きな会議があった。ここでまた、アレグレッテで幌つき荷車に乗ってきた、例の密使のご婦人の話がぶり返された。そして二人の司令官の対立が再燃したというわけだ。
お偉い方々は、虫けら同然のわし等にはくわしい説明などしてくれないもんでな。だからあまりよく知らないんだが、いつも聞き耳は立てて周りの出来事に気を配ってはいた。だが内輪の秘密ごとまでは知ることができなかった。
しかし、ガルパーでは――知っているかね?ガルパーはこの世で一番美しい草原が広がっているところだ――、問題の二人は手紙のやりとりをしていた。
もう四四年になっていた。
大佐は何とも物騒なことを書き送り、将軍はいつもの慎重な言葉で返事をした。
そして、二月二七日、将軍はわしを呼んで、アカシアの木の下に繋いであった二頭の馬を川岸の林の方に連れて行くように命じた。体の大きな黒鹿毛と、赤毛の馬だった。(つづく)
ホーム | 文芸 | 連載小説 | ガウショ物語=シモンエス・ロッペス・ネット著(監修・柴門明子、翻訳サークル・アイリス) | ガウショ物語=(45)=ファラッポスの決闘=《2》=多くの血が流されたことか