7月23日木曜日のことである。日本のとある金融サイト向けにブラジル経済情報の原稿を書くため、ネットで様々な情報を検索していたら、「日本経済新聞社がフィナンシャル・タイムズ(以下FT)を買収」という記事が流れてきて、思わずあっと叫んでしまった。
短い「あっ」という言葉の中に、おそらく3つの思いが詰まっていた。一つは、まさかっ、想定外という意表を突かれた、信じられない思い。二つ目は、すごい、よくやったという気持ち。最後は、大変だろうなあという、日本企業が人材勝負の外国企業を買収した時のマネジメントの大変さ、難しさが頭をよぎった。
特にグローバル化する金融界は生き馬の目を抜くような業界であり、M&Aも日常茶飯事、人材の流動性も高く、そこを取材・報道するメディアも当然それに対応をしていかなければならない。
日本経済新聞も、日本で金融業界向けに「日経ヴェリタス」というタブロイド紙を発刊しているが、あくまでドメスティックなメディアであり、FTは世界中で読まれているグローバルメディアの一つで、各国の政治経済のリーダーも読んでおり、影響力がまったく違う。
だからこそ買収したのだろうが、マネジメントはなかなか大変だろうと、他人事ながらブラジルで「人」の問題で苦労しているだけに、強く思ってしまう。しばらくはまったく独立して運営されるようだが、将来どのように連携をしていくのか楽しみだ。
そしてFTは、ブラジルでも影響力のあるメディアだ。FTは英国のメディアよろしく、大抵は、いつでも、どこの国についても辛口の記事を書くのが常だが、特にブラジルについてはネガティブな記事が多いようだ。
7月23日付の記事でも、ブラジルの政治・経済はまるで「終わりのないホラームービーだ」とイギリスらしいシニカルだが、的を射た表現で、最近のブラジル政界のドタバタ劇と大型贈収賄事件を報じている。その記事に反応して、さっそく翌日のエスタド・デ・サンパウロ紙では、ジャケス・ワグナー国防大臣のインタビューが掲載された。
FTは記事の中で、ブラジルはリセッション(景気後退)に入っている上に、ブラジルの腐敗はますます大きくなっており、すばらしい国のオーラは消え去って、鼻息の荒かったブラジルのイベージが悪くなったと書いている。ルセフ・ジルマ大統領の弾劾の可能性もあるということから、前述のコメントにつながっている。
それに対して、大臣は面白いコメントをしている。FTはいつもブラジルの悪い面ばかりを見ている、と前置きをした上で、ゼネコンのトップが起訴されていることは事実だが、ブラジルの各種機関は問題を解決するために苦労している。
FTの見方は間違っており、「ブラジルは、ホラー映画ではなく、スーパーアクションムービーだ」と語っている。だから、当然次々と難局を迎えるわけだが、それをこれまでも乗り越えてきたと。
実際にこの3年間も経済成長をしており、中間層も拡大し、生活は安定してきている。今は世界経済が苦しいだけに、かつての大統領に比べて、ジルマ大統領のやり方には波があるように見えるが、いずれは今の大きな波を乗り越えるだろう。その時、FTはホラームービーとしてではなく、おとぎ話として記事にするかもしれないと。
何はともあれ、ブラジルの政財界が気にするメディアの1つのオーナーが日本企業になることは、画期的なことだが、FTを傘下に収めた日本経済新聞は、ブラジルの政治経済を今後ホラーとして書くのであろうか、アクション映画としてであろうか。たまにはおとぎ話も取りあげてほしいところだが …。