私はブラジルに来るお客様や友人などに必ず、サンパウロでは上を向いて歩かずに、下を向いて歩くことをお勧めしている。それは2つの理由からだ。一つは、特にパウリスタ大通り周辺などはそうだが、セキュリティ面の問題である。初めてブラジルに来られた方はどうしても、キョロキョロと上を向いて歩いてしまう。
地元の人は見慣れた風景なので、上を見ずに、下を向いてスタスタと歩いている。泥棒やスリには、誰がターゲットかは一目瞭然である。せっかく長時間のフライトに耐えて、サンパウロに来ているわけだが、背に腹はかえられないので、なるべく下を向いて歩くようにお願いをしている。
もう一点もシビアな問題である。まさに地雷を踏むようなもので、これをしてしまうとどっと憂鬱になる。もうお分かりだと思うが、犬の糞である。サンパウロは今まさに、いたるところに、犬の糞あり、である。それだけ、犬を飼っている家庭が多いということだが、これは国の経済が発展し、個人所得が増えた証左だろう。
私は1990年代後半から2000年代にかけての10年ぐらい、まさに怒涛のごとく成長する中国に毎月のように足を運んでいたが、その成長は目を見張るほどであった。明らかに女性の服装がカラフルになり、男性の恰幅が極めて良くなり、飲食店の店員の接客態度もマシになり、最後にペットを飼う人が増えていった。犬は食べるモノであった中国が、ペット大国へと変化していったのだ。
ブラジルも、私が最初に来ていた1990年代初頭は、ほとんど街でペットを連れて歩いている人を見かけなかった。ブラジルは野良も含めて、犬や猫が少ないなあという印象を持っていた。
ところが2000年ごろから来るたびに犬の散歩をする人の数が増えていき、この3年ぐらいは私がサンパウロで住んでいるアパートからオフィスまで20分程度歩いて通勤する間に、少なくとも10頭、多い日は20頭は散歩の犬たちを見る。
7?8頭まとめて散歩をしているお兄さんもいる。それもそのはずで、国土地理院(IBGE)の2013年の調査では、約2890万世帯でペットが飼われていて、家庭内では子どもの数よりペットの数が多いらしい。ブラジル人二人に約1匹のペットがいる計算になるとのこと。
日本でも1994年のバブル崩壊後にペットサークルの方々と犬向けの保険や家、メディアなどの開発をしたことがあるが、ペット市場は不景気に強く、その後も順調に伸びて、日本でも大きな産業に成長している。
ブラジルの市場規模も調べてみると、2013年のペット用品とサービスの売り上げが約6000億円で、日本が2014年に4000億円弱だったので、すでに日本を追い抜いており、驚いたことにアメリカに次いで世界第2位にいつの間にかなっていた。さらに今も年間10%の勢いで伸びており、やはり不景気に強いことをブラジルでも実証している。
ペットフードがやはり67%ぐらいを占めているが、病院、美容、保育などのサービスも順調に伸びているようだ。ペットの種類は約35%が犬で、次いで魚、猫、鳥と続く。しかし、今のところ、残念ながら日本企業の参入はないようだ。
ブラジルも比較的袋を持って散歩をして、ちゃんと糞の処理をしている人が多いのがまだ救いだが、数が多いだけに放置される数も少なくない。昔、花の都パリに初めて行った時に、ペットの糞の多さにがっかりした記憶があるが、サンパウロもそうならないことを祈りたい。
とにかく、サンパウロに初めて来られる方は、下を向いて歩くことをお勧めします。