23時45分、帰りの地下鉄が気にかかるが、試合の行方も気にかかる。22時開始の試合は4対3、コリンチャンスの1点リードでロスタイムに突入していた。暫定とはいえ、首位浮上を知らせるタイムアップの笛の音を直接聞きたい。しかし終電を逃しては元も子もない。
泣く泣くロスタイム4分を残して駅に走った。駅への緩やかな坂道は、無許可で飲み物、食べ物、みやげ物を売る人、彼らをバイクで蹴散らそうとする警官、ガラス瓶の破片が散乱する混沌の世界だった。
スタジアムから歓声が聞こえる。隣でラジオを聴いていた人もガッツポーズ。どうやら勝ち切ったらしい。コリンチャンス、薄氷の勝利で、首位のアトレチコ・ミネイロをかわし、暫定首位浮上だ。
対戦相手のエスポルチは、ペルナンブッコ州都レシーフェ、今年の全国選手権1部で唯一、北東部に本拠を置くチーム。
低予算ながらもよくまとまったエスポルチは上位争いに絡んでおり、「躍進の秘密を探る」と新聞で特集も組まれたほど。
「敵側に特に有名な選手はいないけど、絶対に楽な戦いにはならない」と覚悟をしていた。
前半早々から1点ずつを取り合った試合は、前半終了間際にこれがセンターフォワードとして先発に入って2試合目のルシアーノが、コーナーキックに合わせて自身2点目。後半も早いうちに追加点が入り「意外と楽な展開になるのか」と思いかけたが、そうは問屋がおろさなかった。
負傷した左サイドバックに代わって後半開始から入ったギリェルメが自陣ゴール前で、まさかの敵にプレゼントパス、難なく決められ1点差。9分後にも左サイドを破られ同点。勝ちどころか引き分けさえも危うくなってきた。
ここからはブラジル人選手の精神的にタフなところ、交代で入って自分のせいで2失点の選手が攻撃面で意地を見せた。彼の鋭い切れ込みからのセンタリングが敵の腕に当たってコリンチャンスにペナルティキック。絶好の勝ち越し機を10番ジャジソンがものにして4対3。
守備は堅いが、攻撃がイマイチのこれまでのコリンチャンスらしからぬ乱戦だった。
首位と勝ち点差2の2位、この日は首位チームの試合が無かったため、「暫定」の2文字が付くものの、コリンチャンスは首位に浮上した。
まだ全国選手権は折り返しに差し掛かっただけ、これまで鉄壁だった守備にほころびが見えたり、過密日程、主力選手がセレソン招集で3試合欠場濃厚など、不安要素も無いわけではないが、3万を超える数が詰め掛けたコリンチアーノは、帰りの地下鉄でも大いに歌い叫び、夢心地の首位に酔っていた。(規)