在日ブラジル人に頼りにされる日系医師夫婦がいる。外科医の松崎信二郎さん(50、二世)と妻で小児科医の会理子さん(48、東京)で、二人とも日本とブラジル両国の医師免許を持ち、首都圏の病院に勤務する。一時帰国中の11日、二人に話を聞いた。
「一般受診者なら1人5分だけど、ブラジル人は30分。言葉の問題で普段は病院を敬遠して、不安を溜め込んでから来る人が多い―」。ポ語での受診を希望する在日ブラジル人が、二人の勤務する病院に各地から訪ねてくるという。
信二郎さんは過去に在日ブラジル人支援を目的とするNPO法人「SABJA」の活動で、群馬県大泉町や静岡県浜松市など、在日ブラジル人集住地区での巡回診療を行なった経験も持つ。
ロンドリーナ医科大学で医師免許を取得後、JICA本邦制度等を利用し、数年間慶應義塾大学で消化器外科の研究を行なった。「先進的な医療に触れ、将来日本で研究を続けたいという思いが芽生えた」と振り返る。
帰伯後は、サンパウロ市援協の巡回診療に7年間に渡って従事した。「損得なしに困っている人を助ける。そんな医師としての根本を学んだ」という。
その後、二人は当地の治安に不安を覚えたことと、幼児二人の教育も考え、05年に日本に拠点を移すことを決意。信二郎さんは猛勉強の末、翌年の国家試験で見事合格した。「ブラジルでは医者でも、不合格なら日本では無職。不安で仕方がなかった」と当時の心境を吐露した。
東京生まれの会理子さんは、10歳の時に親の仕事の都合でブラジルに移住。以来、ポ語で全ての教育を受け、サンタカーザ大学卒業後、小児科医として働いていた。
「日本で仕事をするつもりはなかったけど、周囲に推されて…」。一度目の国家試験に不合格だったことで奮起し、子育てと家事を両立しつつ予備校に通い、翌年、2度目の挑戦で見事合格した。
「現時点では、我々のような外国人が日本の国家試験に合格するのは非常に困難」と信二郎さんが話すように、医師国家試験は受験資格ですらかなり壁が高いようだ。
厚生労働省HPによれば、日本語能力試験の最難関N1認定はもちろん、自国で医師免許を持っていても、本試験前に年1回の予備試験(筆記)と、1年以上の実地修練が必要だ。
信二郎さんは、ポ語を解する日本人医師が数少ないことを挙げ、「言葉の問題で苦しむブラジル人患者がいるのも事実。制度改正に期待することはもちろん、私たちのように日本医療に関心を持つ人のための研修制度の存在が大切では」と話した。