しかし、静岡県の富士市役所で外国籍児童へのサポートが何もないわけではない。外国人スタッフを置いて夜や土曜にも相談を受けている国際交流ラウンジ「フィス」は、外国籍児童への学習支援のほか、その父兄の懇談会や進学相談会を設けるといった活動を行っている。
この窓口は、同市の外国人増加に伴い何か対応をしなくては、という市側と、外国人支援をしていたボランティアの活動が発端となって2002年に誕生した。
管轄は市役所であるが、元々ボランティアだった現場を知っているメンバーで運営されているため、相談された内容をすぐに反映する小回りの利いた活動をしている。
夏休み、自分の子供の成績表を持ってきて「これでうちの子はどこの高校へ行けるの」と相談に来る親の姿が見られるという。学校でも担任と三者面談で進路の話し合いをしたはずだが、子供に日本語能力がある場合は通訳もおかれない。そうなると、子供が説明をしないと親は蚊帳の外になってしまい、後から「フィス」に相談に来る、とのこと。
「子供もこの時期、思春期・反抗期で親とじっくり話し合うというのを嫌がるのか、ここへきて学校や家のことを2時間くらいおしゃべりして帰るというようなこともあります」とスタッフ。
ブラジル人の両親は基本的に仕事中心の生活を送り、普段、家に帰ればグッタリだ。親子がいつでもなんでも話し合えるというのは大切だが、どうしてもこういった難しい時期はあるだろう。フィスは親子間の「つなぎ役」にもなっている。
「学費が安いから公立高校ならどこでも」と考えがちな親と、自分のやりたいことや成績を考慮して私立も視野に入れる子供の間で隔たりが出てくる。そこで親子の会話はもちろん、第三者の助言は必要不可欠だ。
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「フィス」の活動の一つが、2005年から始まった外国籍小学生を対象にした、夏休みの授業サポート教室だ。
当時、外国籍児童には夏休みの宿題が出されていなかった。「どうせできない」という学校側の判断で、児童全員に配布されるはずの問題集「夏の練習帳」が外国籍児童には購入されていなかったという。
代表の冨田さんは10年前を振り返る。「学校に配属された支援員さんから相談を受けたんです。日本の子供たちには宿題が出されるのに、外国人の子たちは夏休み中ぽかーんとしているだけ。9月にはまたひらがなからのやり直しになるって」。
そこで夏休みの初めに一週間の教室を開いたのだが、最初はなかなか人が集まらなかったという。親も本気で考えていないため、「来る」と言っておいて別の予定を入れてしまったり、すぐに休んでしまったり。
ところが、一人の児童が「夏の練習帳」をサポート教室で終わらせ、夏休み明けに提出したところ、担任にとても褒められた。気分のよくなった児童はその後、意欲的に勉強をするようになり、他の外国人児童にも変化が訪れた。
「2、3人から始まって多い年には80人にもなりました。一度通ってしまえば翌年からは当たり前になるし、楽しくなって夏の練習帳以外にもポスターや読書感想文などの他の宿題に取り組む子も増えましたよ」。
(つづく、秋山郁美通信員)
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