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VALE TUDOの政界=何処へ行くのかブラジル政権=サンパウロ市 駒形秀雄

 しばらくは寒いどんよりした日が続きましたが、このところ青空も見え始め、季節もそろそろ変わり目のようです。で世の中はどうなのかと新聞やTVを見ると、出てくるのは・公社の汚職、インフレと失業は増大と相も変わらずお寒い話ばかり、季節とは違って、春はまだ遠いようです。こんな時こそ政府がなんとかしてくれないか、と頼りたいのですが、生活を良くすると公約した政府とその法案を審議する議会とがギクシャクと対立して国民のための施策がキチンと打ち出せないでいます。
議員数
 個人の家庭で言うならば、父ちゃんが何とか家族の生活を良くしようと働いているのに、これに協力するはずの母ちゃんはカードだ、分割払いだと、自分の気の向くように着物などを買ってくる。それで家は借金ばかりが増える。
 争いの果てには「家庭(国)が上手くいかないのはお前のせいなんだから、お前が辞めれば良いんだ」とお互いに非難の応酬になっています。これでは本来国の主人となるはずの国民は堪ったものではありません。折からの不景気風が吹き荒れる中で、一体これから私らの生活はどうなっていくのか? 「明日の国」と言われていたブラジルは何処へ行くのだろうか?
 不安はつのります。そこで今回は、何とも分かり難い今の政治について、『町角政談』に詳しいという『神部―かんべ』さんに登場願い、この辺の解説をやって頂きましょう。

議会は国民を代表する

 ブラジルの国会、中でもクーニャ議長で代表される下院は年のはじめから活発に活動を始めました。従来は、月曜は休み、金曜も休み、「一週を3日で暮らす良い男」と言われた議員さんが全週日働き、更には夜遅くまで執務、議案の審議を続けたのです。
 凶悪犯罪に関わる年少者の「成人年令引き下げ」、退職積立金の「利子計算法」、司法職員の「給与大幅引き上げ」など続々と処理しましたが、これが政府原案に反したり、国庫からの予定外の支出を余儀なくさせる修正だったりしたのです。
 予算にもない支出を1レアルでも削りたい政府は困ります。法外の支出増には大統領も「拒否権」を発動したりして対抗しますが、それさえもまた下院で否決されます。
 これら議会の「反乱」を主導したのはE・クーニャ議長とその一派です。「議会は立法の府で、政府案の自動承認機関ではない。我々は独自の判断に基づき、国民のために尽くすのだ」と言います。
 また、ラバ・ジャットなど政治がらみの汚職審議にまで関与を拡げ、議会内に特別委員会を設けて関係者に証言を求めています。政府はクーニャ議長のPMDB(民主運動党)とは政権支持与党として同盟を結び、多数の大臣ポストを提供しているというのに、「何でこういちいち政府の方針に逆らうのか! 畜生め!」です。
 神部(以下、『 』内は全て、このかんべ氏の発言です)
 『今回の一連の(ラバ・ジャット)汚職事件でワイロなどの不正行為をし、起訴確実を言われている政治家は、上院、下院議員、元大臣などで五十数名いるといわれている。議員達が盛んに活動しているのは一つには自分達の力を誇示して有罪判決から逃れるためだ。警察や検察を管轄する法務大臣を議会の委員会に呼び出したのも「あまり変な捜査はするな(手心を加えよ)」と言う先生方の圧力だ。また、クーニャ議長のPMDB(民主運動党)は各自が独特の考えを持ち、独自の行動をとることで知られている。日本人からみたら、てんでんバラバラで統制が取れないように見えるが、元々ブラジルの政党は主義主張で纏まるというより、各自の利益を最高に追求するための各個の寄り集まり党派なのだから、それを理解せねばならない』
 クーニャ議長は石油公団の韓国製洋上基地契約に関し、500万ドルの手数料を得たとして最高裁判所に告発されています。又、別に、この議長の行動にはさすがに他の議員たちがたまりかねて「議長は辞職せよ」と議員による署名運動を始めています。辞職要求の理由には「自分個人の利害のために公器である議会を利用している」と言うのがあります。
 対するクーニャ議長は最高裁への告発などは「わしを追い落とそうとする反対勢力の謀略だ。わしはこんなことでへこたれん。絶対辞任などしない」と意気軒昂です。
 さすがブラジル代表らしい強気の発言ですが、「暑中見舞い」として選挙区民に「うちわ」を配っただけで大臣職を棒にふった(ふらされた)日本人とは対応が大違いですね。

大統領を首にする

 このクーニャ氏が反目した一人がジウマ大統領です。PT(労働者党)出身のジウマの人気が急落して「こんな大統領は取り替えろ」という動きが急に高まりました。現職の大統領を首にするには色々なやり方が有りますが、現在盛んに言われているのは「インピーチメント」(IMPEACHMENT)方式です。
 その適用にはまず、大統領が何らかの犯罪に問われていることが必要ですが、この犯罪事実をもとに議会がIMPEACHMENTを掛けます。これを下院513名中の3分の2=342議員が賛成し、更に上院でも81人中の3分の2=54人の賛同が必要です。
 中々大変ですが、一国の大統領ですから、「態度が気に喰わない」程度で簡単に追放は出来ないように規定されているのです。
 更にそのアトはどうなるか?―ですが、大統領がその職務を遂行できない場合その代わりに大統領の職務を行うのは次の様に順番が決まっています。即ち①副大統領(現在M・テーメル氏)、②下院議長(現在E・ クーニャ氏)、③上院議長(現在レナン・C氏)で何れもPMDB(民主運動党)の所属です。
 それで、一時、この様にクーニャ氏らが反乱するのは自分達の不正疑惑にフタをするだけでなく、自党による政権奪取のチャンスと見たからではないか?とも噂されました。
 神部『PMDBはブラジル有力政党の一つだから大統領を生む能力は十分にある。しかし問題はその後だ。昨今の国際的な不況の下、ブラジルは今年も来年も経済が良くなる兆候はない。金が廻らず、失業が増えれば国民の不満は更に高まる。そういう環境情勢を十分承知でジウマを無理やり追い落とし、政界大勢力のPTを敵に回したら、その後の議会運営が極めて苦しく行き詰まる。今のPT=ジウマの苦境を繰り返すだけだ。今まで共に闘ってきた友党を裏切って政権をとった奴と言われるか、今まで通りジウマを支えるか、その後の将来まで考えて行動に移す必要がある「ここが思案のしどころ」だろう。勿論、現在の反政権党―PSDB(社会民主党)との関係も「組むか、闘うか」真剣に考えねばならない』

PSDB(社会民主党)に政権は来る

 さて、では前回選挙でジウマ・PTと死闘を繰り広げたPSDBの状況はどうでしょう。
 同党党首で前回の大統領候補だったアエシオ上議は、「ジウマ政権は汚職で泥まみれ、一番大事な経済政策の失敗で、このインフレ、不況を招いたのはジウマPTだ」とその責任を鋭く突いています。
 ですが、それでは前述のインピーチメントで他の党と組んでジウマを追放するか、と言うとそうでもない様なのです。何故なら折角ジウマを追い出しても、その後には反対勢力のPMDBのテーメル副大統領やクーニャ議長が控えているのです。一生懸命やって「良い席に座るのは他の人」ではトンビにアブラゲで、力は入りません。
 ところがここにPSDB/アエシオ上議を大統領に出来る妙手があります。どうするのか、お分かりですか? それは前回の選挙を「無効」と判定してもらい、大統領選挙をもう一回やり直す妙手です。
 既に疑わしい「タネ」はあるのですが、ジウマ陣営が前回選挙で不正(汚職)の資金を使っていたという選挙違反を摘発して、大統領と副大統領の当選を無効としてもらうのです。そうなれば選挙はやり直しで、代わりの大統領を決めることになります。現在敵陣、特にPTジウマの人気は最低で20%程度、今度はPSDB、DEMなどの現野党が勝てる可能性は大ありなのです。(つづく)