【共同】海外で暮らす被爆者にも国内の被爆者と同様に医療費を全額支給するよう求めた訴訟は、最高裁が8日に判決を言い渡す。結論の見直しに必要な弁論を開いておらず、全額支給を認めた大阪高裁判決が維持される公算が大きい。
原告は、胎内被爆した韓国在住の男性(69)と、2010~11年に亡くなった同国在住の被爆者2人の遺族。在外被爆者は4千人以上に上り、支援者たちは「裁判の当事者だけでなく、全員に医療費全額を支給する制度をつくるべきだ」と訴えており、判決後の国の対応が注目される。
男性ら3人は腎臓病などで計100万円以上を韓国で自己負担してきた。被爆者援護法は医療費の全額支給を定めるが、国の指示を受け、国外在住を理由に不支給とした大阪府の処分取り消しを求め、11年に提訴した。
国側は「国内の医療機関を受診していないと適正性を担保できない」と主張。だが一審大阪地裁は「援護法は国家補償の性格がある。規定を国内限定と解釈する必然性はない」と支給を認め、二審大阪高裁も支持した。
最高裁も支給を認める見通しで、その判決は一審で原告全面敗訴となり、現在も広島、福岡両高裁で係争中の2件の同種訴訟に影響するだけでなく、国の運用見直しにつながる可能性もある。
在外被爆者と国内在住者の格差は、司法判断を機に改められてきた。02年には、日本から出国すれば健康管理手当の受給資格を失うとした国の通達を大阪高裁が違法と判断し、国は翌年に通達を廃止。その後も、在外公館での手当や被爆者健康手帳の申請など、国は何度も制度や運用の見直しを余儀なくされた。
だが、医療費の問題が残っていた。国は援護法とは別の助成事業で年に30万円を上限に支給するが、高齢で重い疾病に苦しむ被爆者らにとっては高額な治療費が必要で、全額支給を求める声が上がっていた。
韓国の原爆被害者を救援する市民の会の市場淳子会長は「これまでも司法の場で国の施策の誤りを一つずつ認めさせてきた。最高裁判決を機に、国の姿勢の見直しを求めたい」と力を込める。
広島で在外被爆者の支援を続ける豊永恵三郎さん(79)は「医療費は内外格差の最後の大きな壁で、それがなくなるのは悲願」と話し、「差別解消になぜこんなに時間がかかるのか。最高裁は国に猛省を促すような強いメッセージを出してほしい」と注文を付けた。
▽在外被爆者
広島、長崎で被爆し、海外で暮らす人々。厚生労働省によると、今年3月末現在で33の国と地域に約4280人おり、内訳は多い順に韓国約3千人、米国約950人、ブラジル約150人など。訴訟をきっかけに、2003年からは健康管理手当を受給できるようになり、08年の被爆者援護法改正で在外公館を通じた被爆者健康手帳の取得も可能となった。医療費の国の全額負担は、国内被爆者に適用されるが、海外の被爆者が居住地で受診した場合は対象外となっている。
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