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VALE TUDOの政界=何処へ行くのかブラジル政権=サンパウロ市 駒形秀雄=(下)

アルキミンサンパウロ州知事(Foto: Ciete Silverio/A2img)

アルキミンサンパウロ州知事(Foto: Ciete Silverio/A2img)

 神部「そう筋書き通りにことが運べば野党陣営には御の字だろうが、その肝心の野党側PSDBも一本に纏っている訳ではないんだ。それはアエシオ(ミナス基盤)に対抗するアルキミン現サンパウロ知事がいるからだ。アルキミンはPSDB内では常に大統領候補の座を争って来ており、前々回セーラ、前回アエシオに座を譲っており、自分は地元サンパウロ州知事に専心している。PT/PMDBが落ちたら当然『今度は俺の番だ』と考えている」
 野党の中の事情もなかなか複雑なようです。
 神部「ジウマ大統領の任期は2018年まであるが、アルキミンの任期も2018年までだ。アルキミンとすれば何も今無理をして政治経済ともに『八方塞がりの国政』を引き継がなくとも、国の景気も回復して来る2018年以後に照準を定めて敵陣営のへたるのを待つ。未だ樹についている渋柿を取らなくとも、そのうち柿の実が真っ赤に熟してから喰えばよい、という判断だ。つまる所アエシオ陣営も与党の内輪喧嘩を突く急迫戦法は取れず、ジウマの選挙法違反などについての選挙委員会の裁定を見てから、方向を決めるのでないか?」

赤字のツケは誰が持つ

 8月31日政府は来年度予算案を議会に送付しました。しかしその内容を知った関係者はビックリ仰天です。支出に対して収入が305億レアルも足りない、つまり赤字なのです。普通、県人会などでも予算を作るときは、収入に見合う様に支出をおさめる訳ですが、国の財政がこれでは話になりません。
 政府としては「これが国家財政の本当の所ですよ。使い道を増やす議会の方で、収入を増やす方策を考えて下さい」と言っているようなものです。この約300億レアルの内110億レアルほどはスマフォなどの電子機器への税金アップ、後は政府の不動産や権利の売却でまかなう考えです。
 これに対し、議会の方では「収入と支出を上手くバランス取る予算を作るのが行政府の仕事だろう。議会は予算案を作るところじゃない」と大憤慨です。政府と議会が赤字の責任をなすりつけて争っているのは勝手ですが、こんな喧嘩は国際的に見てブラジルの評価引き下げになります。
 お陰で米ドル相場は1日で10%も上がり、3・63レアルとなり、株の方は1%強も下がりました。「赤字をへらすには税金を増やすしかない」との政府説明に対し、テーメル副大統領(PMDB)はサンパウロで「企業経営者たちは誰もこれ以上の税負担には耐えられない」と政府とは他人のような声明を発表しています。
 神部「多くの政治家が自分の派や党の利益ばかりを考えて互いに争っている。しかもその手段を選ばず、相手を攻撃する。これではブラジル政治界は、殴るも蹴るも、何でもありの総合格闘技―VALE TUDOと同じだ」
 ブラジリアでは日々、背広を着た人たちが言葉による〃異種格闘技〃を繰り広げている様です。
 神部「政府が議会に『そんなに政府のやり方にケチをつけるなら、自分で予算案をつくってみな』と投げても、議会にはそんな組織は無い。それで予算案の審議が長引き、国の方針が確定出来ない。そのためブラジルへの信頼感が薄れて『そんな国には私の大事なお金は投入できないわ』となる。益々経済は苦しくなる。そんな簡単なことが分らないのか!」

増税するか、支出減か

 中国の経済減速の影響もあり、一次産業依存度の高いブラジルに残された財政健全化の道はそう多くありません。
 我々の家庭のように「収入が足りない分は借金でまかなえば」と言っても、国の借金はすでに国内総生産(GDP)の65%を超えて、70%に達しそうなのです。どこまでもの借金は増やせません。そうなると「収入(税金)を増やすか、支出を減らすか」しか道はないのです。
 国の財政を委託された政治家たち(行政府、議会)は政権とりの争いをおさめて、国の共同の目的(国民の満足度、福祉向上)達成に尽力すれば良いのです。国の運営を担う人達が選挙の時のようなエネルギーをつぎ込んで国の正しい進むべき道を国民に示し、その理解を得て更に前進すれば良いのです。
 ジウマ大統領もこの辺は分かっているのか、この頃は国民に対する対話、説明を始めている様に見えます。そして出来ることから、人々に働き場を提供して、生産を増やし、生きがいを与える政治を実行すれば良いのです。

南大河州が機能停止

 神部「リオ・グランデ・ド・スール州の金庫が底をつき、州政府はついに公務員の給与を分割払いで支払い始めました。受け取る給料に生活が掛かっている州公務員は堪りません。学校、病院、警察がスト入りし、公共の機関としての機能が止まっています」
 もしブラジルの国全体がこのリオ・グランデ州のようになったら、この国はどうなるでしょう。
 神部「ストは頻発し、金は廻らない、強盗が増えて暴動も起きかねません。そうならないようジウマも一生懸命やってるようだが、如何にせん、一般国民に訴える力が弱い、海千山千の強豪LUTADOR(格闘家)相手では迫力に欠ける。ルーラがやった様に一般民衆の間に入って、民衆が分かる言葉で国情を説明し、理解を得なければならない。『少しは苦しいが全国民力を合わせてこの苦境を克服しよう!』と国民を奮い立たせるのだ」

誰が〃救国の英雄〃に

 分かりやすい言葉で国民に語りかける「カリスマ」がいないと、まとまらない国柄なのでしょうか?
 神部「こうして例えば食鶏なら、その生産を増やし、国民には安い蛋白源を提供し、ブロイラーを世界に輸出する。外貨も入り、エサは国産で農業にもプラス、市中にお金も廻る。この様に生産の増強、市場の拡大、市民の収入の増加、と経済を上向き回転に変えれば、税収も自然に増えて国の財政も好転する。国民に進むべき方向を示して、やる気を出させる! 希望を与える! これに成功すれば、リーダーはこの国の救国主となるだろう。ジウマ(大統領)、テーメル(副大統領)、アエシオ(上議)、誰がそのリーダーシップを発揮して〃救国の英雄〃となるか、注意して見守りたい」。(終わり)