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大統領再選に抵抗強い国民=カルテス政権への厳しい世論=パラグァイ 坂本邦雄

カルテス大統領(左)と握手を交わすジウマ大統領(Foto: Presidencia do Paraguay 29/10/2013)

カルテス大統領(左)と握手を交わすジウマ大統領(Foto: Presidencia do Paraguay 29/10/2013)

 パラグァイのオラシオ・カルテス大統領(59)は多くの市民の期待を担いながら大統領に就任してから、この8月15日で早くも満2年を迎えた。しかし、世の中は必ずしも思う様には行かないもので、カルテス大統領のこの2年間の行政結果に対する各階層の人々の評価は大よそ否定的なのである。

 お隣のブラジルのジウマ大統領もその第2期政権が、今年元旦に始まって未だ日も浅い最近、色んな大汚職スキャンダル等々の問題で支持率は過去最低で人気は急落する一方だが、吾がカルテス大統領も油断はできない。

全体的に否定的な評価

 特に政権第2年度におけるカルテス大統領に対する国民の知覚(認識)アンケートを各社会経済階層別に、Ibope・CIES世論調査会社が行った処、上層及び下層の階級が最も批判的である事が判明した。
 そして、例え中産階級が一番肯定的な評価を与えているとはしても、全体的には否定的世論が絶対なのである。
 それに依ると、カルテス行政を最も非難する社会経済階級は下層の者で、その指数は70%を占める。即ち48%は「悪い」、及び22%は「非常に悪い」と断じる部分層である。
 なお、上層階級のカルテス行政評価は「悪い」が42%で、「非常に悪い」が22%であり、即ち64%が否定的である。
 一方、この階級層ではカルテス政権を「良い」と評価するのが33%で、「非常に良い」とするのは僅か3%(計36%)である。
 いうまでもなく、この上層階級はカルテス大統領の属する金満家や資産家の民間企業家が君臨するパラグァイの〃特権階級〃で、カルテスが成功起業家として良く知られている社会層である。
 しかし、この階層の世論アンケートが示すのは、いかに業界の成功者ではあっても、いざ国家行政の先頭に立った場合は世間の見る目は非常に厳しいと言う事である。
 なお、別な視座から観察しても、例え著名な成功起業家ではあるにせよ、畑違いの政界では必ずしも業界と同じ塩梅あんばいに成功は望めないという現実をこのアンケートは如実に物語っている。
 では、中産階級はどうかと言えば、同アンケートによれば、中流レベルの社会経済層はカルテス政権に案外好意的で支持者が多い現象が見られる。
 ここではカルテス行政を「良い」と評価するのが36%で、「非常に良い」が3%である。詰まり、39%がカルテスを支持している。
 でも反面、カルテスに非難的なのは矢張り多数派で、「悪い」が37%、「非常に悪い」も24%に達し、その否定率は61%と高いのである。

政権与党もカルテス次期再選には不賛成

 約35年間もの長期にわたり、ストロエスネルの独裁恐怖政権下に喘いだ多くのパラグァイ国民は、大統領の連続再選には根っからの嫌悪感を抱くのである。
 そして、その国民感情を反映して1992年に発布された現行憲法は第229条で、共和国大統領及び副大統領の任期は5ヵ年とし、いかなる場合も再選は許されないと断定的に規定している。
 しかるにストロエスネル政権崩壊後の民主政体への、既に26年も経った今もなお続く、「移行過渡期」の何れの相次ぐ政権の行政効果も、至って不効率だったのは否めない。
 しかし、歴代為政者側に言わせれば、「5ヵ年の大統領任期は短すぎる、5年では重要な国家政策は何も成されない。よって国策事業貫徹の為にも再選の可能性は考えるべきだ」と暗に唱える。
 そして、この為の憲法改正の道は、憲法がチャンと定めていると云う。
 ところが、これまでにラ米諸国中でもベネズエラ、エクアドル、ボリビア等の、それぞれ極左思想の為政者は、一度民主的に選出されて権力の座に居座ると、今度はご都合主義でゴリ押しに憲法改正を行い、まんまと長期政権をものにする例を見せ付けられている。さらに、かつてのストロエスネル長期圧政の悪夢を忘れないパラグァイの人達は、そうは簡単に大統領再選制度を鵜呑みにはしないのである。

苦い過去から再選に抵抗

 更に、身近な苦い経験としては、誤って(騙されて)〃清き一票〃を投じ大統領に選んでしまった、元司教で誓絶背教者のフェルナンド・ルーゴ(今は上院議員に納まっている)に危うくパラグァイを「ベネズエラもどき」の国にされる処だった悔いがある。
 さて、この様な世情のところ、同じIbope・CIES世論調査会社がUltima・Hora紙、Telefuturoテレビ局及びMonumentalラジオ放送局の委託で、カルテスが属する当の与党コロラド党員の同大統領再選の可能性について賛否の意思は如何なものか調べた結果は、何と僅か24%が賛成で大多数の61%が反対で、残り15%は棄権と云う有り様である。
 政権与党コロラドの黒幕でカルテスの政敵たるフアン・カルロス・ガラベルナ参議員は、去る6月26日の赤党コロラド総裁選(カルテス推薦のアリアナ衆議員が当選)が終わった後、大統領は次期再選の道を模索しているとの強い噂が流れていると指摘した。

大統領の本音はどこに?

 これを聞いてカルテスはテレビでのメッセージで、「余はこの問題は既に昨年の9月に明らかにした。今更根も葉もない噂を立てられる廉はない」と反論した。
 しかし、大統領の側近連のコメントは今年になって大統領再選の話しはひとつの案件になっていて、その決断は赤党コロラド次第の意思決定に関わっていると言う。
 但し、その赤党幹事会の決断が仮に下されたとしても、法的論争は免れず且つ現在は憲法上でも其の道は閉ざされていて、加えてIbope・CIES社の行った一般コロラド党員の意識調査でも反対が大多数である。
 なお、この件に関しては一般有権者の意見も並行してアンケートされ、その結果は大多数の人々は、口先ではカルテスは再選に臨む意志はないと公言するが、出来れば次期大統領選に出馬したいのが本音だと見ている。
 アンケート結果の内容は、先ず「カルテスは再選を求めているや?」の問いに対し、「イエス」が76%で、12%の者が「ノー」と答え、後12%は「分からない」だった。
 次いで質問を変えて、「貴方はカルテスの再選に投票しますか?」には、過半数が否定した。つまり67%の有権者は「反対」で、僅か20%が「賛成」、13%は「分からない」とした。
 なお、区分別にIbope・CIESが調査対象を民間部門及び公共部門別に分類した 結果は、民間労働者の69%並びに国家公務員の46%、それぞれがカルテスの再選に反対の意を表した。
 これは、見たところ多くの国家公務員はカルテス再選に好意的な事が分かる。然し、アンケートが啓示するのは単に27%のみが賛成で、同時に他の27%が疑問視している事は見逃せない。
 民間部門については僅か19%の労働者がカルテス再選に賛成で、11%は不明としている。詰まり民間労働者の70%は反対だと言うことである。