今年も第67回全伯短歌大会(椰子樹、ニッケイ新聞共催)が13日、文協ビル内のエスペランサ婦人会サロンで開催され、例年より多めの49人が参加した。歌友と旧交を温めながら日がな一日歌作りに励んだ。184首の中から栄えある総合1位を獲得した富岡絹子さんには「清谷益次短歌賞」が贈られた。
互選得票
二八票 終の地と決めて悔い無きブラジルに老いて尚見る故里の夢 富岡絹子
二三票 リモコンで操作するごと我が夫は「オイ」一言で私を使う 内谷美保
二二票 日本語解せぬ孫とポ語知らぬ我との会話成り立つ不思議 上妻泰子
一九票 アバカテの枝に吊るせるブランコが今朝は静けさのみを乗せおり 多田邦治
一七票 「ばあちゃんごはん」手をとるひい孫三歳児百歳に合わせしずしず歩む 杉田征子
いつまでの命なるかと思いつつ真摯に生きたし終の日までも 古山孝子
一六票 古稀われの秘めきし小さき夢抱き日本行きの飛行機に座す 金谷はるみ
一五票 希望持つ若者達の明るさに心晴れゆく農の新年 酒井祥三
一四票 独り居に馴れて余生に弱音なしささやかながらも花を咲かせて 島田喜久枝
一三票 幼名で互いに呼びし友逝きて遠くなりけり我が故郷は 筒井あつし
今宵女孫の卒業式に臨まむと吾娘の遺影をバッグにしのばす 武地志津
一二票 耳底に今も聞こゆるせせらぎの清き流れよ古里の川 上口誠一
卒寿なり意義ある年を大切にもう急くこともなきわが余生 山田かおる
新築のアパート夕陽をはねかえし吾が家の厨を赤々染めぬ 杉本鶴代
朝まだき熱きカフェを独り呑む妻亡きあとの無量のしじま 木村 衛
亡き友の歌集を繰れば遠き日の哀歓は顕つ昨日の如く 梅崎嘉明
湯の宿に最後と集いし米寿会皆若やぎて又を約せり 川久保タミ
一一票 遠慮なくものを頼める娘(こ)と住みて吾が晩年の気楽な暮らし 青柳房次
来館者と移民史料館めぐるとき興奮するはガイドの私 新井知里
移り来て住み慣れし国に八十年されど恋しき里の山川 渡会雄太郎
「もう母になっているや」と妻は問う杳く逝きたる娘の命日に 山元治彦
再びの訪うに難なき故里を離れる日にぞ母を抱き締む 早川量通
折々に妻の遺影と目の合いて達者でいるよと手を振りて微笑(え)む 三宮行功
わが子等よ伸びよはばたけこの国で我もイッペーを国歌とせしに 鎌谷 昭
一〇票 目に見えぬものの動きが確実に師走となりて街にあふるる 崎山美知子
白飯(しろいい)の粒立つ見れば自ずから目がしら潤む帰化人われの 上妻博彦
杖をつき静かに歩く八十五の夫に添いゆく今日の幸せ 青柳ます
兄彫りし石仏五つ汝の墓を守るがごとく鎮もりて佇(た)つ 神林義明
子の代となれば無縁の農場に友の夫婦は老い深く住む 谷口範之
手のひらにのこる鍬だこ開拓の苦節に耐えて余生安らぐ 遠藤幸雄
かたみとて残れる銚子は九谷焼祖父の心で今宵飲む酒 外山安津子
移民とうわが人生を顧みる二つの国の幸を希いて 富樫雄輔
だんだんと飯の炊く量減ってゆきついに犬との分だけを炊く 伊藤喜代子
九票 渡伯時の想い出ぽろぽろこばれ出て行きて探せど板小屋はなく 新井知里
半世紀住み居て歌えぬブラジル国歌リオ五輪までに覚えてみたき 金谷はるみ
それぞれに明かせぬドラマ胸にありわれら移民は日伯のかけ橋 瀬尾正弘
激情は不意に込み上げ収まらず糟糠の妻吾残し逝く 木村 衛
伏目にて手をさしのべる聖母像憩の園の庭の木かげに 志村とく
政治家のモラルなき国ブラジルの汚職なくせと庶民の願い 平間浩二
八票 歌一つ手帳に書き居る間にも夕映え雲の色うつりゆく 崎山美知子
老いゆくは自然のことと嘆かねど見守る子等はさびしかるらん 小野寺郁子
映りいるしわの深さや赤銅は農に生きたる者の勲章 山元治彦
言葉には未だし曾孫が仏前に両手(もろて)を合わせ頭を下げる 原 君子
春を待つ桜見守る夕べには南の風よ柔かに吹け 高橋真栄
良き友に囲まれてあるわが幸を夜毎朝毎神に感謝す 千田修子
老いという濃霧の中に紛れ込み妻よ出口を共に探そう 松岡正樹
髪アップして娘の眼鼻きりっとなり今から歯科の勤務に出かける 松村光江
七票 労働を終えてランプに灯をともし名作を読むひと時たのし 上口誠一
年古りてヒョイと出てくる国ことば移民の哀しみ消ゆる事なき 上妻泰子
ご先祖の石碑のめぐりに雨つゆをやどして咲けるつゆ草の花 青柳ます
子も孫も曾孫も生せりこの国を故郷とおもい愛でしいる日々 外山安津子
母よりのセピア色なる封筒に身の辺整理のその手とどまる 須賀徳司
ホロホロと落つる木の葉の一枚が一羽となりてかなたへ飛べる 坂上美代栄
血縁の重きを知らぬ子等の居り孫なき春のゆるゆると過ぐ 長井エミ子
若き夢この道確かと波頭越え悔いなき余生心安らぐ 平間浩二
大人らの心配よそに船上で無邪気に手を振る難民の子ら 山田節子
花束を抱きてはじらう誕生日八十歳の秋の日の午後 小濃芳子
ひとふきの風に身をもみ落つる花山家の秋は音なく去りぬ 長井エミ子
想像だにつかぬ苦悩を載せていま安らかに在り椰子樹の御歌は 大川澄雄
見下ろせる午前の街のひとところ国旗はためくだけの風吹く 多田邦治
六票 故郷(ふるさと)の桜に優るさくらなしカルモざくらのつぼみふくらむ 武井 貢
バス停の馴染みの顔にボンヂアと田舎の朝あけ妻との散歩 瀬尾正弘
ブラジルの未来を背負う孫達に日本文化を諭し励ます 遠藤幸雄
役を遂げあまたの移民みまかりぬ殿⌒しんがり)われらなお歌を詠む 山岡秋雄
亡き母を想いつつ供華にと切るつつじ一枝ごとにこぼす朝露 川上定子
昼弁当焼海苔巻いた握り飯畑の木蔭に妻と並んで 湯山 洋
おふくろの味で馴染みし和食いま伝統料理で世界遺産に 水野昌之
かたかたと雨戸鳴らして風強し夜のしじまに独りきく音 阿部玲子
移り来て桜も植えし此の庭にイペーの木ありて春を待つ己 高橋真栄
父祖の血をかくもそれぞれ受けしかと子等の仕種を見つつおそるる 川久保タミ
若き日の夢のかけらを包むごとうす紅のパイネイラ散る 小濃芳子
家もぶじ庭木もぶじと大声の夫の声にて長旅終われり 橋本孝子
生をうけ幾星霜を重ねきて悔いと笑いが走馬灯のごとく 坂田栄子
椰子樹歌誌何と重たき言葉かな開けば心の思い弾けん 大川澄雄
五票 久しぶりの冬日和にてありがたしやも男のわれが布団干すなり 藤田朝寿
七転び今だに続く人生路埃をはらって意地でも起きる 島田喜久枝
老いし夫の病は癌とわれに告ぐ医師の言葉を耐えがたく聞く 富樫令子
老いて尚諦観とは言い難し思考の理非に迷う事あり 古山孝子
カーネーション机に飾り歌集読む日射しやさしき秋日和かな 山上もと
移り住みラテンの大地夢の日々喜寿を迎えしコスモスの中 田口作夫
貧しくも荒野の果てに夢けぶる移民万葉命ひたぶる 宮城あきら
我が青春戦時中とて贅沢は敵だとがまんが口ぐせになり 大志田良子
この土地で子供や孫に恵まれて残る余生も鍬と歩まん 湯山 洋
息子から冬のスーツを贈られし少しほこらし街を歩きぬ 吉峰倫子
瞬きをする間に変わる朝焼けにこころ潤う鳥の囀り 金城ヤス子
戦争をせよと教へる神ありや平和を祈り逃げ惑ふ民 富岡絹子
蝶二匹舞いては交わり秘めやかに晩秋の樹々に夕日さす頃 宮城あきら
お赤飯にガルフォの祝い膳郷に従い慣れ来し幾とせ 相部聖歌
四票 夢多き歳らし孫娘十五歳登校の道を友とかけゆく 酒井祥三
曙に雲は染められ三日月の淡き光りよ静寂の中 金城ヤス子
花もとめひとりなぐさむ憂いごとかさなる今年の母の日近し 小池みさ子
手の肉刺に包帯を巻き開墾に励みし吾の今に富むなし 梅崎嘉明
「花は咲く」メゾソプラノで歌い終え拍手の中に潤むひと見ゆ 足立富士子
幾度も泣きてはまたも読み返す昭和万葉集秀歌集 千田修子
病床の母に泣かれて移住して今だに消えぬ母の泣き顔 池田アヤ子
砂漠のバラその名にひかれ求め来し一重五弁の紅色の花 住谷 久
ただ励ますほか言葉なし衰えのめだつホームの夫を見舞いて 小池みさ子
夫病みて心の重き日々つづく痛みのなきを救いとなして 富樫令子
移り来て五年も経たず母は逝き孝行できずに終わりしを悔ゆ 阿久沢愛子
寝た孫を起こさぬように耳遠い夫に用事を手まねで話す 内谷美保
水中の眼鏡つけての川下り出合う魚に流し目されたり 足立有基
花の命短しと仰ぐ梢よりはらはらと散るイペーロッショは 阿部玲子
妻逝きて少年のごととまどえる知人の厨ありし日のまま 斎藤白憂
その母を失いしより早や三年女孫健気に励みいるなり 武地志津
永き日の耕し終えて祈る宵桜のきだにかかる夕影 石黒 久
三票 ぬばたまの闇に開きし夜顔よ蝶も目見えず蜂も目見えず 住谷 久
笠戸丸の船出数えて百余年拓魂の歴史異国に輝く 小坂正光
両親も祖父母も姉も反対し夫を信じて移民妻になる 阿久沢愛子
車椅子押しつ語りし散歩道訪えば去年亡き妻の面顕つ 三宮行功
神さまと対話のチャンスに恵まれて私の寿命延びているらし 梶田きよ
母の日よ五人の子等よりオメデトウ電話の前に走る幾度 川上美枝
高値なぞおかまいなしの買いっぷり我が殿さまに言わずもがなや 串間イツエ
冬一日なにか急かるる思いして古き日記の記録を辿る 富樫雄輔
動画にて伺い知れる孫の日々這った、立った、と我が老い気づかず 鎌谷 昭
七十年戦争知らぬ人多く開かれゆくはパンドラの箱 松岡正樹
ちち母は八人生みたり吾と妻は六人を生みき子等然るべし 上妻博彦
惚ける日の来るやも知らず古里の竹馬の友が顕ち来る夕べ 青柳房次
この夏の異常な暑さに水涸れてとおり雨さえ貴重なしずく 神林義明
吾が祖国、地上天国さながらにサクラ並木は花曇りなす 小坂正光
老いし今、釣堀に行くといそいそといで行く夫に声援おくる 杉田征子
移り来て六十年の歳月は一家団欒のメーザも長く 須賀徳司
街灯の白きひかりの朝早く街路樹青くサビア啼く朝 田口作夫
不愉快なことは忘れて爽やかな雲の祭典眺めませんか 梶田きよ
若き日にゆきて遊びし少女子等はいづこにゆきしかコロニア古りて 川上美枝
月詣りの老婆の集いささやかなビンゴの賞品にあがる歓声 川上定子
コロノの家わが家と思わず幼なごはうちへ帰ろうと移住せし頃を 高橋暎子
夫の趣味庭で育てた豆ちぎり風味ゆたかなてんぷらうまし 石井かず枝
生を受けこのよう生きて終わりゆく神との約束いつしたのだろう 滝由梨香
二票 むずかしきことはかけずもやさしきこと作品にしてしるしたるなり 小林英子
二世とは差別語じゃないかと言う息子のいつにない語気にとむね衝かるる 野村 康
曾孫に童謡おしえ覚えしは「おててつないで」上手にうたう 山田かおる
孫三人巣立つ日近し良き未来選びて行けよ祈る爺婆 杉本鶴代
漢字にて自分の苗字かくように筆順記したノートを孫に 志村とく
緑なすコーヒー園を眺めつつでこぼこ道を行けどもみどり 坂田栄子
ブラジルに永住決めし従妹の言葉「住めば都」の心根偲ぶ 下間良子
吹く風のこころのままに散らさるる桜にならず薔薇とし生きん 滝由梨香
同齢が急逝したり友われに「ではお先に」の言葉もかけず 小野寺郁子
この土地にファゼンデイロを目差しにき住居に近くパイネイラ咲く 谷口範之
暁の雲間に紅さす朝焼けの湖水に映りて赤き尾をひく 渡会雄太郎
母の日の墓参を終えてほっとせり去年の此の日はU・T・Iなりし 原 君子
歌会や世代を祝う福船か古稀に傘寿に卒寿も参る 山岡秋雄
齢なれどリズム体操に魅せられて重い足腰持ち上げてみたり 足立富士子
苦瓜をとっている時しりもちをつく傍らに日々草わらう 串間イツエ
啄木の詩に引かれし十九の春戦はげしく中断よぎなく 大志田良子
「柿色ネ」沈む夕日は日伯の共通語にてあらわす大地 伊藤喜代子
秋空に児童らの声高らかに元気もらって散歩に出よう 吉峰倫子
曲水の宴にて短歌したためる友の姿はさながら公達 下間良子
一票 残んの香そこはかとなき姥桜その熱情に絆されて 新島 新
やさしかりし記憶となりぬ母の日はレストランに女王となりて 寺田雪恵
移り来て六十年のこの大地骨をうずめん愛する祖国 興梠太平
塞翁が馬志に夢のせみのりの少なき穂束を背に 馬場園ヤス
わけもなく涙あふれる日も多く八十の齢なかば心よわりて 野口かつえ
こりこりと二つの指で掴みたる茱(ぐみ)かと見紛う新妻の乳首 増田二郎
孫娘出産祝いに頂きし蘭十年目の花は開きぬ 相部聖歌
文協に女性の会長実現す安倍さんの夢日系コロニアで 水野昌之
春祝うイッペー満開同じ場所われも咲きたい置かれた場所で 石井かず枝
店頭の金時豆の文字にふれ我青春の母にめぐりき 斎藤白憂
気を病めばパソコン迄が同調し調子の狂う悪循環 新島 新
作品に何をかかんとかんがえていたづらに時は行くなり 小林英子
大学の教授も街に改革を叫ぶ映像に子等の表情(かお)いたまし 野村 康
ビッグバンの時代のものか三メートルの石は割れしが双子のごとく 寺田雪恵
夫婦して幼く母を失いし心の傷を慰む母の日 筒井あつし
どの子にも等しき思い有りえども心に留む添いし優しさ 早川量通
八十の声を聞くにも母上と桜吹雪は美しきかな 興梠太平
霊魂でも死神とでも手をにぎる男になれず老い坂とぼとぼ 馬場園ヤス
いつの日か倖せ山とつみて来る車のハンドル誰にもたせる 野口かつえ
縫いぐるみの羊を仕上ぐ亡き母も作りまししを面影うかぶ 酒井文子
齢経れば亡き友一人またふえて霜枯れにけり黄菊一叢 山上もと
信号機傾きおりて人形(ひとがた)の足が上がりて行けの青色 坂上美代栄
まだ少女かわいい胸のふくらみに大人になる日間近ではと知る 山田節子
〇票 ビル破壊オニブス焼却和合する人間の性善というのか 安良田済
つつがなく六十七年つづく会敬意を表してイッペー咲けり 武井 貢
濁流の排水口に呑みこまれ下流口からの男子助かる 酒井文子
みやげ店早めに払い振りむけば避けし長蛇の列出来る見ゆ 足立有基
山峡のさとは村から市となりし吾眼裏のセピア色の影は 石黒 久
変わる農水耕法に切り替えた若き着眼幸多かれと 伊藤智恵
井戸水のラーゴのシバンチタンバキー二Kとなりて客喜ばせ 池田アヤ子
秋風にツバメ飛び交うすいすいととまどう母の今日は脳天気 松村光江
かく易く要求従化人間論に人間性善説は意味失いぬ 安良田済
妻逝きて十年すぎたり常日ごろ身綺麗にして暮らしてと娘言わしき 藤田朝寿
手で揉んで指でつまんで歯を当てて無きぞと願う妻の乳癌 増田二郎
約束の時間に着きし二家族話題も尽きて二時間過ぎぬ 橋本孝子
第六七回全伯短歌大会・互選総合高得点歌
一位(三三票)
富岡絹子
五五番 (二八票)終の地と決めて悔い無きブラジルに老いて尚見る故里の夢
一四七番(五票) 戦争をせよと教える神ありや平和を祈り逃げ惑ふ民
二位(二九票)
上妻泰子
一〇番 (二二票)日本語解せぬ孫とポ語知らぬ我との会話成り立つ不思議
一〇二番(七票) 年古りてヒョイと出てくる国ことば移民の哀しみ消ゆる事なき
三位(二七票)
内谷美保
四五番 (二三票)リモコンで操作するごとわが夫は「オイ」一言で私を使う
一三七番(四票) 寝た孫を起こさぬように耳遠い夫に用事を手まねで話す
四位(二六票)
多田邦治
九一番 (七票) 見下ろせる午前の街のひとところ国旗はためくだけの風吹く
一八三番(一九票)アバカテの枝に吊るせるブランコが今朝は静けさのみを乗せおり
五位(二五票)
金谷はるみ
二八番(一六票) 古稀われの秘めきし小さき夢抱き日本行きの飛行機に座す
一二〇番(九票) 半世紀住み居て歌えぬブラジル国歌リオ五輪までに覚えてみたき
六位(二二票)
古山孝子
四一番(五票) 老いて尚諦観とは言い難し思考の理非に迷う事あり
一三三番(一七票)いつまでの命なるかと思いつつ真摯に生きたし終の日までも
七位(二一票)
木村 衛
三五番 (九票)激情は不意に込み上げ収まらず糟糠の妻われ残し逝く
一二七番(一二票)朝まだき熱きカフェを独り呑む妻亡きあとの無量のしじま
八位(二〇票)
新井知里
一六番(九票)渡伯時の想い出ぽろぽろこばれ出て行きて探せど板小屋はなく
一〇八番(一一票)来館者と移民史料館めぐるとき興奮するはガイドの私
杉田征子
二四番(一七票)「ばあちゃんごはん」手をとるひい孫三歳児百歳に合せしずしず歩む
一一六番(三票) 老いし今、釣堀に行くといそいそといで行く夫に声援おくる
第六七回全伯短歌大会・題詠「変わり目」・高得点歌
一位 日々進化続ける時代の変わり目に遅れまいとてケータイ買いたり 金谷はるみ
二位 振り返る我が人生の過ぎ来しの変わり目にいつも家族の支えありけり 多田邦治
三位 見えねども振リ返り見る変わり目の時も幾度越えきしことか 伊藤喜代子
四位 七十路は我が人生の変わり目か病気乗り越え強く生きなむ 富山絹代
五位 寒暖の変わり目激し老いの身については行けぬ春の風邪ひく 平間浩二
六位 文協に女性会長現われるコロニア古りて変わり目となる 神林義明
七位 世の中の変わり目なるか此の頃は天変地異のあまりに多し 古山孝子
八位 激動の時代生き来て文明の変わり目に立つ希望新たに 酒井祥三
九位 百歳の変わり目に在るこの我は文盲とたたかう日々を生きいる 安良田済
十位 天候の変わり目のなかイペー樹は雨にそばぬれ黄の花散らせり 阿部玲子
独楽吟・高点歌
一位 うら山のはだかの木々も芽をふきて待ちわびし春になりにけるかも 山元治彦
二位 新しき学期むかえて幼ならの駆けゆく春になりにけるかも 高橋暎子
三位 病癒え家族の笑顔に囲まれて花見る春になりにけるかも 金谷はるみ
四位 ふるさとに久びさかえりてせせらぎの音聴く春になりにけるかも 小池みさ子
五位 ベランダに桜咲きたり鉢植えの美しき春になりにけるかも 金城ヤス子
アベック歌合わせ
一位 葉がくれの月に想いを通わせて言葉少なき二人となりぬ 外山安津子・多田邦治
二位 生きる力ふりまく如く鉱石車あかつきの道ひたすらに行く 寺尾芳子・木村 衛
三位 空仰ぐ心しづかに見つむればまばたきに似て過ぎ来し思う 井本司都子・上妻博彦
四位 待ちていし歌会の日はめぐり来て君のかたえに坐るよろこび 杉田征子・藤田朝寿
五位 黄の花の咲きて散りしく公園に君を待ちつつ歌思ひいる 上妻泰子・藤田朝寿