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第46回 日本人が信じられないブラジルの不都合な真実 ⑥

 ブラジルは税金もインフレ率も高く、労働におけるブラジルコストやリスクもある。非常に会社経営が難しく、儲けるのに苦労するという意識が日本にはあるようだが、実はやり方次第では、高い利益を上げられる国である。その一つの方法として、前回、高い公定歩合(SELIC)を利用することを記した。そして、そこから毎年生み出される大きな金利を武器に、様々な仕掛けができるのだ。
 次に雇用=リスクであるブラジルでは、正規雇用を最低限にすることが重要である。これを踏まえ様々な分野において、アウトソーシングを活用し、コストを下げる工夫をしていく必要がある。ブラジルではよっぽどの大手でない限り、新人の営業を大量に雇ってセールス部隊を作って、ローラーで営業をするというようなことはしない。飛び込み営業的なものは通用しないからだ。
 それに能力があるかどうかわからない、さらにはいつ転職するかわからない人を雇ってトレーニングをするということはリスクでしかない。
 以前にもこちらで書いたことがあるが、ブラジル社会において営業はほぼ人脈である。人脈があれば明日からでも市場は開くが、それがない営業だと、5年かかってやっと商談ができる程度である。それでも彼らには給与は入るし、毎年成績や勤務態度に関係なくインフレ率以上に昇給するので、売上がどうかなど気にしない。最悪クビになっても、そこに在籍したことをフルに活用して、次の転職ではさらに良い給与をゲットできるとしか考えていない。
 営業を雇わないとなると、販売店を間に入れることを考えがちだが、中間の税金が膨らんで競争力を失う。社員も多く採用せず、販売店もつくらず、いかに販売ルートを作るかがミソだ。ブラジルでルートを開拓するために、一番手取り早いのはM&Aでルートごと買うことである。特にレアルが安い今がチャンスである。欧米・韓国企業は今、虎視眈々とルート買いをすべくリサーチ中である。
 次に、コンサルタントを使うことだ。ルートごとに強いコンサルタントと契約をして、開拓を依頼する。コンサルタントのメリットは、社員を雇うリスクを回避しながら、社員に払う給与を考えるとかなり割安で、太いルートを紹介し、商談をまとめるように動いてくれることである。
 日本企業は、大手のコンサルタントに調査などを依頼することはあっても、なかなかこのような営業ルート開拓や事業サポートにコンサルタントを雇う習慣がない。形が見えないもの、ノウハウ・ルートなどにはなかなかお金を払おうとしない。それよりも実体が見える社員を雇った方が良いと考えてしまう。
 アジアや他国ではそうかもしれない。ここが臨機応変で現地決裁権がある欧米企業と発想が違うところである。欧米企業は、重い固定費や資産を抱え込んでしまうぐらいならば、少し高めでもコンサルタントに確実にルートを開拓してもらって、ビジネスを早く軌道に乗せた方が最終的にコストパフォーマンスは高いと考える。特にブラジルの雇用リスクを考えたら間違いない。
 また仮に社員を雇うとしても、経験者であり、ルートを持っている人間を、基本給は少なく、コミッションを多くして、駄目であれば早めにクビにするということを繰り返す。そうすると会社にはルートが残っていき、辞めさせられた人もその実績を使って、次に高く自分を売れるのだ。
 人財と呼んで、人重視の経営が多い日本企業にとっては、ブラジルのこのドラスティックなM&Aや人事・営業はなかなか不都合な真実のようだが、その先に高い利益率が待っている。(つづく)

輿石信男 Nobuo Koshiishi
 株式会社クォンタム 代表取締役。株式会社クォンタムは1991年より20年以上にわたり、日本・ブラジル間のマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ、各種認証取得支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。  2011年からはJTBコーポレートセールスと組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供と中小企業、自治体向けによりきめ細かい進出支援を行なっている。14年からはリオ五輪を視野にリオデジャネイロ事務所を開設。2大市場の営業代行からイベント企画、リオ五輪の各種サポートも行う。本社を東京に置き、ブラジル(サンパウロ、リオ)と中国(大連)に現地法人を有する。